curious chapter5 scene37

　…そういうものなのかな。
　とかそんな風にも思う。完全なものを求める、とかそんな風に考えたことはなかった。今まで渡ってきた「足りてない世界」たちに、じゃあ、何かを「足して」みようか、とかそんな風に思ったこともないし。
「…あなたたちにはまだちょっと早かったかな？」
「うわ。出たよ年上の上から目線」

「それはともかくさ」
「あらひどい」
「その不完全な世界ってのがその部屋ってことになるわけ？」
　…うーん。
「不完全は不完全なんだけど、うん、たしかに」
「そういうのがその『世界』ってことになるのかしら？」
　何度かうなずいてから…明子さん。
「未来サンの思う『世界』ってのは全てがパーフェクトワールドじゃない、ってことなのよね？　必ずどこか何かが不完全。陽子姉ぇのお部屋もやっぱり不完全。じゃあ完全なモノって何？　ということにならないかしら？」

　…完全な世界。パーフェクトワールド…。

「でもそれは現状を見てる未来サンの考えなのよね」
　ちら、と阿多根先輩を見る。「？」という顔の先輩。
「渡ることのできない私たちからすれば…そう、陽子姉ぇのお部屋みたいな場所って、結構憧れたりするものなのよね。自分一人だけの場所、自分だけがどうにかできる…世界。そういうのってなかなかないのよね」
「なければ作る！」
「いいから座ってなさい」
「へーい」
　…うわあ
「まあ、そういうのもアリかも知れないけれどね。…ねえ、未来サンは自分で世界を創ってみたいって思ったことはないの？」
「わたしが…世界を？」
「そう。あなたのお母さまみたいに。どうかしら…？」

　…世界、ねえ…。
　またお見舞いに来てあげてね、アケハルさんが無理な時にはお願いしたいし…そうでなくてもまた、ね？　と病院で明子さんとは別れた（まだ病院でやることがあるらしい）。阿多根先輩は…バス代もらってるからねー、とのことで…駅まで一緒に戻ってそこで別れた。
　…世界、かあ…。
　家に帰るまで、歩く。目に映る景色はいつもと同じもの。いつも…学校に行く時やどこかに行く時にも…見ている風景。それは未来にとっては馴染みのあるものばかり。たまに建物が取り壊されて建て替わったり、季節季節によって木々の色が違ってきたりはするけれど。でもそれらを含めてもいつもと変わらない。
　いや、変わっているけれどそれを感じていない、のかも知れない。
　それは『世界』というモノに関しても同じようなことが言える、のかも知れないけれど。でも…

　…わたしが世界を創る、なんてね…。
　今日はまだ誰も帰ってきていない。自分の部屋のベッドに…そのままごろり。天井を見上げてみる。これも…変わらない。
　ふと思い立って勉強机の本立てを探る。数学の参考書に…英和辞典、地理の地図帳に…
　…あ、あった。
　あの申請書の手引書。いつの間にかなくなっていたけれど、最近また出現？したのである。もちろん、中も読むことができる。ただ…何が何だかよく分からないのはやっぱり変わりない。具体的にどうしたらいいのか、なんてなことすら分からない。
　…やっぱり無理よね…わたしには。
　ガーフに聞いてみようか、とかそんな考えも頭をよぎったのだけれど。なんかそこまでする必要もないかな、と。

「ふーーー」
　軽く息を吐いて、目を閉じる。少しだけ、寝ちゃおっかなー…まだ時間、あるし…まだ、早い、し…。