chapter6 "あん・さーんぶる その２ [ensemble #2]"
…あれ…？
…えっと。
気が付くと天井の色が違う。木の枠組みの天井なんて、うちは、えっと…？
「おっはよー！ ミライ？ さ、起きた起きた！ ふとん片しちゃうよー？」
「ディクシィ…」
「どしたの？ ミライ？ ぼーっとしちゃって…あ、なんかヘンなもんでも食べた？ いや、そんなことないか。だって昨日も一緒に食べたもんね。…起きる起きる！ いい天気だよー！」
と、追い立てるように未来を叩き起こし、さっさとふとんから何から全部ひっぺがしていく。
「今日はあたしが当番だからね。じゃー、洗ってくるねー」
と大荷物抱えたまま下に向かう階段に向かい…
「あ、あの」
「ん？」
「な、何でもない。また…後で」
「うん。また後でねー」
と、階段を踏み外して大きな悲鳴だかわめき声だか分からない声をあげながら降って行ったのであった。
…変わらないなあ…。
陽子さんの言う通りならここで『陽子さん』と問いかけても答えてはくれないだろう。だから…このままでもいいのか、な、と。
「よお」
足元から声がする。
「ガト。…おはよ」
そっとしゃがみこんでみる。…ガト、かあ…。
…みんなは覚えてたんだけど…ねえ？
「ひゃんだい、ふぁにふるんだ、ふぉい、ひゃなへ、ふぉい！」
両手で顔をつかみ上げ？て顔を両方へ引っ張ってみたりしていたりして。…あー、猫ってやっぱり柔らかいんだ、とかそんなことを思っていたりもする。
「…って、何しやがんでい！ ったくもうよお…戻んなかったらどうするんだって、あー…」
「あ、ごめん、つい」
「なんか妙じゃねえかい？ ミライ？ なんかあったのかい？」
「いや、うん、何でもない」
そっと立ち上がって一度天井を見上げてみてから、そっと笑みを浮かべてみたりする。
「そうかい。なら…いいけどよ？」
一階に降りてみると（ガトも一緒についてきた、足元に）朝の宿屋はやはり騒々しい。
基本的に自分たちでできることは自分でやって、その代り宿代は安くする…という場所だからカネのない若い冒険者であふれ返っているのもやはり変わらない。ついでにここは食堂でもあるからここに泊まっていない連中が食いにくることもある。だから、さらに騒々しい。
「今日はあそこ行って〜」
「俺の剣、今日取りに行くか？」
「ねえ、明日はさ〜」
などなど。声と皆の動きが波のように打ち寄せては、また返してくる。
「おう、こっちだ、ミライ」
席（と言ってもカウンターの端っこ）を三つ取っておいてくれたらしい、大剣背負った若い男が手を上げてくる。
…ハリエル。
今でもちょっと？疑問？なのが実はこの男だったりする。母であるはずのキョウコという人が一体何を思ってこの人をそういう風に設定しようとしたのか…とか。
もちろん当人はそんなこと知るはずもなく。カウンターの中をちょこまかと走り回るマリカをタイミング良くつかまえてはあれこれ注文したりしている。この時間帯はある意味戦争状態なので慣れていないとそういうのは難しい。なお、朝よりは昼、昼よりは夜の方が忙しくはなるが…その内容は時間帯によって違ってきたりする。「質」が違う、と言ったところだろうか…朝はスピードが要求される、といった印象。
「あいよー！ 炒めメシやねー！ お待ちー！」
マリカが勢いよく大皿に盛った炒めた飯を持って来る。もちろん、これはハリエルが一人で全部食べるのである。
