未来の右手には光そのものを刀身としたような、しっとりとした光を宿した剣が生じる。カタチは、ない。剣や刀、という言い方は正しくないのかも知れない。ただの…光の棒と呼んでも問題はないほどに。
「七咲くん！」
「うん！」
「拾って！ 私を！」
思い切って左手を離す。下へと引っ張られる勢いそのままに落ちて行く。が…その刀身は未来の身長どころかこの空間くらいもありそうな長さとなり…身体をひねりながら回転させて、音も感触もなく自身に絡みついていた蔦を切り捨てる。
『…11…10…9……オーパス！』
「くっ…これはなかなかヤバいね、ヒオウギ、カウントダウン続行！ こちらで…なんとか…」
機首を下へ向けたその時を待っていたかのように、蔦の一本がハイルインドを貫く。ダメージは少ない、と機体の位置をキープ。そこへもう一本が…。
「…創る！」
空いている左手を大きく振り回し、ソレをハイルインドへ向かって投げる。
『…ほう…魔法防具ですか…なるほど…』
「あなたは…からす。そう、からす！ みんなを、七咲くんとヒオウギを…守って！」
投げたのは小さな小さな光弾、といったところ。しかしハイルインドに当たる寸前から大きく、大きく風船のように膨れ上がる。
「福田さん！」
「七咲くん！」
非常に薄い膜のようにしか見えないソレ（からす）は、しかし、降り注ぐ蔦を難なく防ぐ。そして…落ちて行く未来までも包み込む。
『…7…6…5…』
「充てん室圧迫！ 圧力上昇！ かませぇ！」
『了解ですです！ 充てん室臨界！ …2…1…」
「さくら！ あなたも行って！」
『発射！』
投げ付けられた刀身はひときわ大きく輝く。
………
そこには小さな台座？のようなものがある。先ほどまでの禍々しい様相の植物？はもうない。真っ白な部屋に、小さな真っ白な台座。そこへ
「光…」
やはり小さな、本当に小さな光が一点となって浮かび上がる。
「なんだか…これって…」
そっと手を差し伸べてみる未来。
突然イントが大きなため息。何度も頭を振って…またため息
『…あー…なんだそういうことですかDHYTAIBFEYIIIJJ、XGT、CCCC？』
【LYTDNIT.KOOUTTTDE,KJI,FDT】
声ではない。少なくともこの場の気体を震わせる現象ではない。心の中に直接響いてくる…と言うより自分の中の感覚器官がその音？を無理やり認識しているような違和感すらある。
『…CXITE。要するに行き違い、勘違いというやつですね、これは。HJAZI、JKCUTIRE？』
【OGWQ】
「…何？ 一体？」
「何だろうね？」
ペンギンの姿を解除した啓児と顔を見合わせるのだが…
『…ああ、これは完全に自分たち眷属のミスということになりますね…。申し訳ない。この存在は』
と、右前脚を前に指して見せるのだけど。光の一点とはわずかに違った位置で…やはり何も見えない。
『…何とかしてあなた方、特にミライさんに接触しよう、としていたようです…』
「？」
『…そりゃ見えないでしょうし感じられないでしょうね。高断次元差異がそりゃーもうとんでもないほど離れてますし、何よりあなた方とは根源的な存在事由が異なり過ぎます』
「？ …だから、どゆこと？」
『…今のあなた方では存在を認識できるとかそういうレベルではないほどに離れたトコロにいる存在、ということです。これはあちらも同じようなものなんですが、ね。ただしこの存在は旅人です。それもかなりのベテランさんですね』
「旅人？」
『…そりゃそうです。世界に制限がないなら旅人にだって制限はないです』
「じゃあ、わたしだってそのヒト…ヒトじゃないだろうけど接触できるんじゃ…？」
ふ、とだけ笑みを浮かべるイント。
『…まだまだ無理ですね、今のミライさんでは。それに…もう渡ってしまいましたよ。落し物は届けた、って言ってね…』
いやー、でも大事に至らなくてホント良かったです、ああ、でもこの件はなるべく御内密に…何しろ自分たちの調査不足や対応の不手際が露呈してしまいますので…とかイントがなんだかんだ言い訳？していたのだけど未来の耳には全然入って来なかった。
…わたしの…おとしもの…
そっと、自分の胸を抑えながら、そっと、つぶやくのだった。
「…ありがとう」
…いつか、必ずそっちで会ってあげるから…待ってて
『…ところで最後に名前くらい覚えていってくれって言ってましたが』
「なんて名前？」
『GNIURDAAUIBNYTRVIOJJYRRHKJRSDASPOLKMNHYTRWEDAJBFGDGUOMNVCDHJUTRGPLOUYERWQQXCGBBGFDLAUMIREHJK…』
「覚えられるか！」
そして。
未来の家族が一人、増えることになった。
小さな三毛猫の仔。ペット不可のマンションではないから飼うことは可能。意外だったのは（明夫はもちろん前向きだし、羽佐人は猫好きだし）先守が敬遠してしまった、ということ。特に反対というわけではないのだけど…なんか、うかつに、触ると、壊れそうで、怖い、なんだそうだ。それでもなんとか付き合おう、という努力はしているらしい。
…もちろんただの子猫ではなく。あっちから引き上げる時にイントが『…ああ、そうそう。この身体はもういらないのであげます。そこにちょーどいいのが浮かんでますから、ま、好きにしたらいーんじゃないですかね…？』と。そういうことである。
「だから、ね。あなたの名前は…キョウ…そう、キョウ。よろしくね！ キョウ！」
