「でも福田さん…？」
「え？」
「どっちかと言うと…君、招かれてないかい？ 行く、と言うかむしろ…」
未来を包む木のような枝や蔓や蔦は数を増していく。腕や脚、腹周りにもまとわるついてくる。そして…一気に、ぐん、と「下」へ向けて…
「引きずり込まれてるね、福田さん」
「うん。やばいね、コレ。ったく、もう…！」
反射的に未来はハイルインドのキャノピーの一部を掴む。バランスを失った形の小型バイクはかすかに（いやいやでもするように）「下」とは反対側へ傾き、しかしそれは無駄な抵抗となって横向きに「下」へと落ちていくことになる。
『あー…なんかこんなことになるような気がしてたですです。ミライといると、ホント、退屈しないですねえ…』
『…で…ミライどうするですです？』
「七咲くん？」
「大丈夫だ、心配しないで。あいつのところへ…いや、ヒオウギ、ステアラーは君だ。君に任せる。僕はガンナーとして」
ペンギンの前翅で器用に操作盤を操る。
「福田さん。君を…必ず送り届ける！」
天井？と思われる面を抜けるのは思ったほどあっけなかった。壁、とか、何かの板、とかそういうのをぶち抜けるまでもない。ただ、ただ…何かの境目を超えたなー、するっと抜けたなー、とかそんな程度。
『…ここからが本番ですね』
イントがぼそっとつぶやく。
「そう…かな…」
目の前を通り過ぎて行くのはリョンカの武器屋のあの大きな部屋。しかしそれもすぐに行き過ぎてしまう。そして再度、同じような何かをすり抜ける感触。
「そう…なんだね」
真っ白な部屋。それが第一印象だった。隅々まで、真っ白。
「…まぶしい」
『そこまで輝度は上がってないですです』
「そういうもんなの？ …七咲くん？」
床、と思われる方角から無数の蔦が伸びてくる。
「早速来たね。さて…排除するよ？ ヒオウギ？」
『了解ですです。3ハイト二連スタティージャ左右に展開。8オクト高輝度因子砲スタンバイ、発射可能域までカウントダウン開始』
「…へえ…8オクト積んでるんだ、しかも高輝度か…じゃあ、カウント5まで来たら知らせてくれないか？ その間は君の縦連横断回避行動と、僕が3ハイト二スタでどうにかする。オーケー？」
『オーケーですですオーパス。ではカウントダウン続行。23…22…21…20…』
その数十本もあるような蔦たちは上へ、上へと、迎え撃つようにその勢力を伸ばしてくる。一定の速度を保ったまま…しかし一瞬立ち止まるように空中で停止。そこから季節を迎えた花が満開となるように未来達の真下から展開してくる。規律正しく同間隔で一気に未来達を通り過ぎていく。それはまるで
「檻だね」
すでに未来が身体ごと捕らわれているのだ。未来の身体を中心として規則正しい円を描いて…蔦たちが真上から降り注いでくる。
「させるか。ヒオウギ！ 旋回耐射！」
「ですです！ 17…16…15…」
ぐるんぐるん、と回転による退避行動が始まる。が、捕まって固定されている未来の身体を中心にして円を描いて回るしかない。
「斉射！」
ペンギンが操作盤を巧みに操る。実弾、と思われるその機銃からの掃射はいくらかの効果を見せているようだけど…このままでは…。
…創る
左手だけで自分の身体を支えつつ（しかも下へ引っ張る力はどんどん増している）右手に、シノノメを出現させる。…そうだ、私は、創るんだ、ここで…！
「…福田さん…？」
右手のシノノメは、ぐにゃぐにゃり、とその姿を変えた後、緩やかに光をまとい始め…その光は徐々に定着していく。
「そう。あなたの名前は…さくら。そう。さくら。これなら…あなたと一緒なら何でも斬れる！」
