TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[0]

TheRootSeller 外伝 4 『そんな彼らに花束を』

地下300階？
冗談じゃない、ここがそんなに浅いもんかね。最深部なんて誰も知らないよ…。

　古来より様々な文化が生まれては消えていったセントレランド。その中でも特に謎に満ちているのが古期発祥とされ新古期初頭まで栄えたとされる古代ミノマリナ文明である。
　現在確認されている遺跡は一つだけ。伝承によれば最深部にある『無罪のかけら』を取ってくればどんな罪でも許された、という『ミノマリナ迷宮』である。公式には地下300階にその『無罪のかけら』は眠っていることになっている。が、その存在は確認されておらず、学者の間でも意見は分かれている。

　大草原の真っ只中にぽっかりと口を開けている、いくつかの巨大な穴々がその遺跡への入り口。過去に調査隊や遺跡あらしたちが岩盤に開けた無数の穴がそのまま残っているのだ。
　その一つから下へと降りる…すると降りれば降りるほど中の空間は狭くなっていく、とされている。さらに迷宮内を歩測してみれば一つ一つの階層は巨大な四角形にすっぽりと収まっている、ともされている。そのためここは実は逆さまにした巨大な四角錐を地下深くへと差し込む形になっていて、最深部はほんの小さな一部屋しかないのだ…とさえ言われている。しかし誰かが確認したわけではない。いやいや、巨大な逆四角錐は今度は大きな正四角錐と繋がってさらに続いている、降りきってしまえば今度は逆に広くなっていくのだ、という説もある。しかしこれも仮説の域を出ていない。

　ところで…ミノマリナ迷宮を管理しているマイノス王国遺跡管理課はこの迷宮への立ち入りを厳しく制限している。

　専門の警備隊を常に配備、迷宮へと降りることのできるポイント全てに常駐させている。マイノス王国が所有を宣言する前、約200年ほど昔には一攫千金を狙う連中が無断で大量に入り込み、そのほとんどが帰って来なかった、とされている。王国が厳正な管理をするようになったのは50年ほど前からのこと。それからは『未帰還者』は全然いない、学術目的など筋道の通った理由もなく入り込む『不法侵入者』も全然いない、完璧に保全された遺跡になった、とされているが…。

　ここで一人のルートセラーを紹介しよう。彼女の名前はマナメ・カギョリ。将来は定住することも考えてはいるが、まだまだ早すぎると思っているらしい。その割に行商にもほとんど出たことはない。出身はセントレランドのマイノス王国…幼い頃からミノマリナ迷宮の話を聞いて育ったようなものである。
　そしてもう一人。名はモナークという。
　彼はルートセラーではない。サポーターと呼ばれる一人である。ミノマリナに最も近い町であるクレータに行けばこういう連中はたくさんいる。彼らの仕事は観光であれ学問のためであれ、どんな理由であっても迷宮の中を案内して帰還させることである。もちろん有料なのだがその業務の中にはルートセラーの手伝いも含まれる。何しろルートセラーは武装を許されていない。もし、何かあった時に彼らの身を守るための武器を携行していくのだ。

　…迷宮には簡単に入れないのではないか？　だって？

　蛇の道はヘビ、ということわざをご存知だろう。表向きはいくら厳重に取り締まっていても必ず穴はある。それに昔々からたくさんの人間が出入りしていた迷宮なのである。そこら辺の呼吸は警備隊も当局も心得ている。特に資源もない、農作物もそれほど豊富に採れない内陸の弱小国家にとって、迷宮関連で潤うのは決して悪いことではない。
　しかし…建前上は禁止しているのだ（正式な入宮許可を受けることもできる。が、それには大国のおエライさんの認可が必要になる。学術目的であっても同様だ）。だから警備隊も入る時は目こぼししても、迷宮の中であまり長い時間うろうろさせたりはしない。適当なところで切り上げさせる。観光目的ならなおのこと、宝探しでもそうである。それでも警備隊の目を逃れてさらに奥へと進もうとする者もいるが…違反者は見つけ次第、地上へと連れ戻される。そして相当額の罰金を払わせて…クレータではなく首都エギアへ連行してそこで釈放となる。

　だが。この迷宮は広くて深いのだ。どこにどんなものがあるか、まだまだ知られていない部分の方が多い。それを知ろうとする者はこれからも限りなく訪れるだろう。

　マナメとモナークはそんなミノマリナ迷宮へ向かうためクレータを後にしたのだった。それからのことは彼女たち自身に語ってもらうとしよう。その方がより正確に伝わると思われるのだから。
　ただ…これは正しくはルートセラーのお話ではないのかも知れない。何しろ彼らは冒険者でもあるのだから。その辺りのことを含み置いて、次へと進んで頂くとしよう…。