TheRootSeller 外伝 4 「そんな彼らに花束を」　[1-1]

1:火吹き竜の謎

　やっはい。みんな生きてるー？　元気に生きてるー？　ダメだよ落ち込んだりしてちゃ。そういうねがてぃぶなことはねえ、考えたらダメなんだよ、うん。人間の目ってね、前を見るためだけについているんだってさ。後ろを振り返ったりしているひまなんかないんだから。とにかく前に前に進まないといけないんだよね。だから僕も前だけ見て進むことにしてる。
　僕の名前はマナメ。マナメ・カギョリ。こう見えても女の子。よく男の子に間違われるけどね、なんでかな？　そこんとこはよく分かんない。
　でね。今からね、このミノマリナへ潜るんだー…へへへ、やっぱり迷宮とかそういうね、何て言うか…冒険ですか？　未知の領域ってやつですか？　…こういうのは正直言って燃えますなあ…へっへっへっへ、待ってろよ見たことのない何か、僕が全部かっさらって…。

「迷宮内のものは基本的に持ち出し禁止だ、バカやろ」

　分かってるよう、そんなにきつく言わなくてもいいじゃない。

「むくれるな。行くぞ。次の巡回時間まであと少しだ。まったく、一昨日はお前があんな余計なことさえしなけりゃ突入できたってのによ。俺一人なら楽勝だったんだ」

　モナーク一人で行っても？　しゃーないし、意味ないじゃん？

「ああ、分かった分かった。その辺のつっこみはもうどうでもいいから。ほら、行くぞ。ぼさっとすんな。…それっ！」

　………

　僕はルートセラーなんだけど…知ってた？　タブレットには僕の生まれた町、エギアの名前が刻んである。エギアはマイノス王国の首都でそこの薬協支部で承諾書にサインしたんだ。ルートセラーとは言ってもほとんど何もしてないけどね。うちは普通に母さんが雑貨店やってたけど特に薬草とか売ってたわけじゃないし。だからルートセラーのことなんかほとんど知らなかったんだけどねえ。
　…じゃあ、なんでルートセラーなんかやってるのか、って？
　ええっとね。なんでだろね。僕もね、えーと…あんまし詳しいことは…あ。そうだ。たしかエギアの薬協支部にね、家のお使いで行った時だったと思う。二軒隣に住んでるマーシャちゃんが承諾書にサインしてたんだ。うん。それで「マナメちゃんもどう？」って誘われたからついでに僕もね、サインしたんだ。それから…え？　マーシャちゃん？　さあ？　なんかこないだエギアからどっか行っちゃったみたいだけどどこ行っちゃったのかな。なんか分厚い本とか読んでたけどね。よく知らない。
　僕はそれからちょこちょこ薬協支部に顔出してたんだけどね。いつの間にかクレータに来ちゃって。…いや、そうじゃなくて…依頼受けたんだっけ。エギアで。そいで…こうやってミノマリナへ潜ることになったんだ。サインした時はまさかあのミノマリナに潜ることになるなんて思いもしなかったけどさ。まあ、大抵みんなこんなもんじゃないの？　何かやる時ってさ。

　おっと。そうだった。グローブ。これがないとね。なんかの動物の皮でできててがんじょーそのもの。でも指先のとこだけ空いてるから作業もしやすいんだ。
　それに組合旗も着けとかないと。組合旗は常に目立つように所持すべし、ってね。僕の組合旗はこうやってね、頭に巻いておくんだ『薬草アリマス』って。…ハチマキ？　そうとも言うね。でも組合旗ってどんな形でもいいらしいからさ、こういうのもアリなんじゃない？　あ、もう一つぱんつにも書いてあるんだけど、見る？　別にいいかな？　スカートなんかはいたことないから見せようったってそう簡単にはいかないけどね。
　それにこのカバンね。背負うことは背負ってるんだけどジャマにならないよう、そんなに大きくないんだ。中に入ってるのは…ちょっとした身の回り品とキロの実くらいかな。だから誰かに薬草売ってくれ、と言われてもねえ…僕は商品持ってないからモナークに言って売ってもらうしかないんだ。でも薬草を売ってないってわけじゃないから…『薬草アリマス』ってのもウソにならないよね？

　僕の住んでたエギアからクレータまでは歩いて一日かからないくらい。マイノス王国そのものがそんなに大きくはないんだけどね。南北大街道からはちょっと外れているけどバイパスのなんたら街道が近くにあるし。僕はそれなりに栄えてると思うんだけどなー、なんかね、モナークに言わせるとこんなのは栄えてるうちに入んないんだって。
　あ。えっとね、さっきから出てくるモナークっていうのは…しっ。ちょおっと静かにしててね。今さ、実は取り込み中ってやつなんだ…。

　…うん。分かってる。先に行ってて。すぐに行くから。
　…大丈夫だって。僕だってそこまでバカじゃないんだから。一昨日みたいなヘマはしないよ。
　…あのねえ…ちっとは信用しろっての。いいから先行ってて、ってば！

　ふう。やっとモナーク行ったよ。先に潜ってもらって、まずは下の確認からしてもらわないといけないのに。
　うーん…月の明りがきれいだねえ。しばらくはこの光ともお別れかあ…。
　さ、行ってみようか。何せ見張りの警備隊員がいない時間ってえと夜のこの瞬間くらいしかないからね。一昨日はちょっと僕がヘマしちゃってね。危うく見つかりそうになったけど…この縄梯子か…よっと。ちょっと手繰り寄せておかないとねー…降りるのはそんなに難しくないんだけどさ、この縄梯子がねえ…ちょっとねえ…。

　あ。

　あり？　切れちった？　ありゃあ…こりゃ相当に痛んでるね。しかも細いなあ…こんなんでよくモナークってば降りれたねえ…って、なんで急に明るく…。

　あ。
　やば。見つかったー…向こうから三人てとこか。…うるさいなあ、もう。そんなに下から怒鳴らなくても分かってるって、モナーク。こういう時はこうするしかないっしょ！　…そりゃっ！

　僕は切れた縄を多分三人がいる方へ投げ付けて…一気に穴から下へと跳び下りたのだった。へへへ。