「めっちゃ無口なんや。でもええやつやから、かんにんしたってや」
肩にはもちろん手が届かない。だから腰の辺りをぱんぱん叩きながら豪快に笑うマリカと…黙って自分を見るソケイ。でも未来にはその目はとても優しいものに見えた。悪い人じゃないみたい…と素直にそう思った。
「ああ。いいやつだぜ、ソケイは」
二人がそれぞれの仕事に戻って…マリカは買出しに、ソケイは表の掃除…からハリエルがしみじみと言う。あれからさらに人の数が減ってきている。テーブルについているのは未来たちと他に一人、二人。
「こういうどこでもできるような仕事を紹介してくれたりするしな」
皮袋を持ち上げて見せる。本来なら町中で店を回って自分で探すものらしい。それをソケイが店の外へ出るたびに探してきて、店に泊まっている連中に紹介してくれるらしい。そのための掲示板も設置してあって、請け負う時はソケイに知らせる。すると、一回だけしっかりとうなずいて笑みを浮かべてくれる。
「あんましゃべらねえけど、それがかえっていいのかも知れねえ」
「マリカさんは？」
「…あれはなあ…」
ヒモをしばる手を休めて、ちょっと考え込む。天井を見上げて、ため息を一つ。
「あれも悪いやつじゃねえよ。うん。悪くはねえんだが…ちょっとうるせえのがな。それに自分のペースでしかしゃべらねえからうざってえ時もある。それでも悪くはねえ…のかねえ？」
昼を過ぎたくらいにガトが起きてきて…そしてディクシィも戻ってきた。一緒に2階から降りてきた二人に紹介された。彼らもここに泊まっている冒険者とのこと。他にも仲間がいるのだが、今は他用で外に出ている。
「リンチャですでーす、よろしくね」
マリカほどではないが、やはり小柄な少女。明るい声だ。ぶんぶんと未来の手を握って振り回す。
「ディクシィから聞いてるよ？ なんか色々楽しそうだよね？ 今度どっか遊びに行こうね？」
「オレはヤッシ。よろしく」
こちらは線は細そうだがバネのある体つきの男性。そっと握手をしてきた。そしてこそっと耳打ち。
「…どうだ？ 何か買わないか？ 安くしとこう」
「ヤッシ〜？ ここで商売するんやったら儲けの1割こっちに入れることにしよか〜？」
マリカの声に肩をすくめて、それでもにやりとした笑み。
「まあ、何かあったら声かけてくれ。そういうことだ」
「うん。あの二人は別々にパーティ組んでるの」
これくらいの時刻になるとまた人が増えてくるものらしい。先ほどまでの店の状態がウソのように混んできた。それでも朝ほどではないが、未来を知らない客もいて、そのたびに挨拶するのは変わらない。
「リンチャはサーナと。ヤッシはライカとカノンとニコ」
「あ、ニコのやろ、貸した銀貨まだ返してこねえな…何やってやがんだ」
米の飯、というのがこちらにも存在している。数種の具を入れて油で炒めてある。焼き飯とかチャーハンみたいなものかな、と未来は思っていた。ただし、香りがいつものとはちょっと違うような気がする。香料が違うのだろうか。
その料理…炒めメシ、とまんまな名前でハリエルが注文していた…をががががっとスプーンでかきこんでいくハリエル。やや深めの皿にもられたそれを、皿ごと抱え込むように、ががっと。たしか欧米だと皿を持ち上げることはマナー違反だったかな、とか未来は思ったが…別にここではそういうことはないらしい。ディクシィも話しながらスープの入った大きめのお椀から直に飲んでいたりする。
「どこかここじゃないとこで会うかも知れないけどね。そうなったら…ライバルってことになるの」
「ふうん…」
色々あるものらしい。
「そうだ。ハリエル」
ガトはやはりミルクをちびりちびり飲んでいる。
「なんだよ？」
「ミライを後で武器屋に連れていってやんな。何かと入り用だあね」
「ああ、そうだな。何がいいかな」
…何だろ…？
「最初はみんな短剣から入るのよね」
「…武器？」
「そうだ。何かないと始まらねえからな。弓矢とか使ったことあるか？」
ぶんぶん、と首を横に振る。同じクラスにアーチェリー部の子がいるけど、どんなんだったかな…。
「じゃあ、まずは短剣からだな」
「あたしも一緒に行こうかな、そろそろ補給しておきたいし」
「おし、決まりだな。…ガトはどうする？」
「おいらかい？ おいらは…ここで寝てるよ。お前らだけで行くといいさ」
