丁寧に、しかし力を込めた口調でそう言うと、未来たちを奥へと案内していく。思ったよりもこの店は奥行きがあるらしい。
「決して表にある武器が全て良くないものだ、というわけではないのでございますよ」
しかしこういう重要な商談の時には奥を使うのだ、と。特に初めてのお客様には色々お尋ねしないといけないもので…と。
…なんだか紅茶とかアロマオイルとか、そういうお店みたい。
リョンカと名乗る老紳士はそういった品の良い品々を扱う店の人にも見える。武具を見なければ、だが。
店の中はさっき彼が言ったように静かで時折せきや小さな息遣い、そしてぼそぼそとした小声がするくらい。もちろん金属である武具が立てる鋭い音やこすれるような高い音も聞こえることは聞こえる。が、まるで崇高な寺院のようにここでは音が少ない。
そんな中、案内された奥にはテーブルと椅子が二つ。向かい合うように置いてある。大きな窓があって、しかしなぜか頑丈なよろい戸で閉まっている。
「ドアは閉めとくんだよな」
リョンカ・未来・ディクシィ・ハリエルの順で入って行って…ハリエルがドアを閉める。部屋の中は当然真っ暗。
「これを回したらいいの？」
小さな声でリョンカが答える。ハンドルか何かを回しているようだ。…よろい戸が少しずつ開いている。上へ、上へ、と。だから少しずつその部屋の中の様子が未来にも見えてきた。
テーブルと椅子があるのはさっきの薄暗がりの中でも見えていた。テーブルの上には何もない。テーブルクロスもない。椅子も木でできた質素なもの。そして壁も真っ白、とまではいかないが普通に白っぽいだけである。片隅に小さな台があってランプが置いてあるのが見える。入った直後にはもちろん気づかなかった。そして…テーブルの下に大きな箱のような一抱えできるほどのカバンがあることにも気がついた。
他には何もない。武器屋ならあるはずの武具もない。ただ、部屋にテーブルと椅子があって…でも武器屋の中とは違ってここには外のまぶしい光がきちんと入り込んでいる。さっきまでの印象とは大分違う。
「さ、おかけ下さい。お話を始めましょう…」
優美な手つきで未来を椅子に座らせると、自分も反対側の椅子に深く腰掛ける。
ディクシィとハリエルは、ちょっと真面目な顔で未来の後ろに立っている。
「では…始めましょうか。その前にこれまでに何か武器を使ったことはございますか？」
人を探る、というわけではない優しい目。
「いえ」
…包丁は…違うよね、武器じゃないよね。
「左様でございますか。それではこれを持ってみてください」
テーブルの下のカバンを探って取り出したのは…軽く握れる程度の小さな石。
言われるままに手にしてみる。やや赤っぽくてところどころ乳白色の筋のようなものが入ってるが、どこにでもありそうな石。
「おや。違いますな。では、今度はこれを」
その石を引っ込めて、今度はひときわ目を引く深い青の石。やはり手のひらに乗る程度。しかし青の発色がとても深くてちょっとした宝石なんじゃないのか…と石のことなど何も知らない未来は思ってしまう。
「ふむ…お次はこれを」
青い石の代わりに今度は茶色の土のかたまりのような石を渡される。ぼろり、と崩れてしまいそうに見えたが実際はそうでもない。しかしそれもすぐに別の石に変えられてしまう。渡されたのは澄んだ黄色をした石。割れた面が尖っていて、触るのを少しためらってしまいそうだ。
「…あ」
何だろう、ほんのりとあたたかいような気がする。でも気のせいのような…。
「やっとかよ、風ってことかい？ リョンカ？」
「ううむ。微弱ではありますが…風のようですな…ううむ、しかし…これは」
「弱いよねえ、あたしもそう思うもん」
…何のことだろ。
未来が手にしていた黄色の石をディクシィが、ひょい、後ろからつまみ上げる。
「あたしならこうなるの」
ぽう、とディクシィの手を中心に黄色い光がともっている。石が自分で光っているわけではない。窓から入る太陽の光を反射しているように見える。
「これらは『試石』と呼ばれるものでしてな。特殊な加工をしてどの石がお客様に合っているか、それを見定めることができる石なのでございます」
「武器てのは人それぞれモノそれぞれだからな、合う合わないがはっきりしてんだ」
ハリエルはテーブルの下をのぞきこんで…赤っぽい石を手にして見せる。やはりその手には赤い光がともっている。
「全部原材料によって決まっちまうのさ。合わねえ材料使っても良い武器はできねえってわけだ」
「ほほ、あらかた言われてしまいましたな。武器というのは基本は4つの原材料を組み合わせて作るのですよ。すなわち地のダリオサイト、水のミナオリナイト、火のファリアナイト、風のサリウサイト。合う原材料なら持ち主に様々な力を与えますが、合わない場合は何もありませぬ。そして、この試石は合う者が触れると太陽の光を強く跳ね返すようになっているのでございます」
