「俺には火のファリアナイトが合っている。だからこいつもファリアナイト中心で作ってもらってるのさ」
背中の大剣を親指で示してみせる。
「あたしはね、風のサリウサイトと地のダリオサイトと相性がいいの。武器もそっちで作ってもらったのよ。…あ、精霊様とは関係ないんだから。名前は似てるけど、精霊様のお力とはまた違うんだからね」
「地の精霊様は『ダリオス』・水の精霊様は『ミナオリア』・火の精霊様は『ファリアイ』・風の精霊様は『サリウス』」
軽く咳払いをするリョンカ。
「対して地の石は『ダリオサイト』・水の石は『ミナオリナイト』・火の石は『ファリアナイト』・風の石は『サリウサイト』…と呼ばれております。これは精霊様のお名前を頂いた名だからでございます」
「何か、関係があるんですか？」
そう問うと、少し考えてしまう。
「関係があるかないか、と言われれば…そうですねえ…」
「何言ってんの、精霊様なんだから！ この世に精霊様と関係ないものなんて存在しないんだから」
「…精霊バカは黙ってろ」
大きくため息をつくハリエル。
「なによー、ハリエルも精霊様に対してしつれいじゃないのー！」
「うっせ。…属性通りだからな。とりあえず名前もらった、とかそんなもんじゃねえの？ なあ、リョンカ？」
「左様ですな。それが一番近いところと言えるでしょう」
「はあ…」
「ですがミライさんの場合、主となる石の力が、ちと弱いようですな」
…はあ。主となるって…。
「精霊使いが承認受けるのとは違うってこった。精霊使いだと二つ三つ承認受けられることもあるって、ガトも言ってたんだろ？ でも石との相性はどれか一つすげえ合うのがあって、他にいくつか少しだけ合う、ってのが普通なんだ。俺ははっきり分かるのが火のファリアナイトだけだが、この精霊バカの場合風のサリウナイトが主で地のダリオサイトとはちょっとだけ合う、ってとこだ。そういう配合は人ぞれぞれなんだ」
「ばかっていうなー、このばかー」
「それらを見極め、皆様お一人お一人に合う武具を作るのが私めの仕事なのですよ。例えばハリエルさんはファリアナイトと大変に合いまする。他の石とは反応してないように見えまする。しかし実際にはそれと分からぬほどに微弱に反応しておるもので…それらを細かく検査して本当に合う配合を見定めるのでございます」
つまり原材料となる石の配合が合っていないと良い武器にならない、そういうことらしい。
「でも…」
「なんだ？」
「その、全然合ってない武器って、全然意味がないの…？」
「そうでもねえよ」
懐から手のひらに収まるくらいの小さな短剣を取り出して見せる。
「これにはファリアナイトは入ってねえ。何だったっけな、ミナオリナイトと…？」
「ああ、それはミナオリナイトとダリオサイトをイーブン、つまり半々に調合したものですな。原材料にも質、というものがございましてな。あまり質の良くないものは無銘のまま、それなりの強度だけを持たせて安く売るのでございます」
「表にあったのは大抵がそんなもんでな。一山いくら、ってやつだ。まあ、安ければ安いなりに使いようもあるってこった。こいつの場合、投げたりしても大して惜しくねえ。こっちは」
再び親指で背中の大剣を指す。
「俺用に合わせてもらってる。大事に使うさ」
「それよりさー…ミライに合うのって、一体何なのよ？」
飽きてきたのかテーブル（未来のすぐ横）に両手を投げ出して、見上げるような格好になってきているディクシィ。
「そうですな。サリウサイトがやや弱く反応した程度、ということは…」
テーブルの下のカバンから、小さな布袋を引っ張り出してくる。布袋と言ってもそこらにあるような作りではない。丁寧に織られているようで、触らなくてもその柔らかさがよく分かる。何かとても大事なものが入っているようだ。
三つあるそれらをテーブルの上にそっと置く。
布袋から出てきたのは黒い石と白い石、そして灰色の石。
「おいおい…」
「えー…」
「…そこまでするのか？」
「仕方ありますまい。大抵は4つのうちどれかなのですが、まれにこちらに合う人もいますでな」
「そんな人ってホントにいるんだ。あんまり聞かないよね。今までどれくらいいたの？」
「…一人…ですかな。しかも大分前でございますよ」
黒い石は光沢が素晴らしい。鏡のように皆の顔を映し出している。白い石もぴかぴかだが、輝きすぎている印象がある。灰色の石は…砂のかたまりにも見える。しかしやはりつやつやと辺りの光を跳ね返している。
「さ、触れてみてくだされ…」
