黒い石は、なんだか冷たい。
未来はそう思った。しかし特に何か変化があったわけではない。白い石は…そこらの道端で拾ったような、やはり普通の石の感触。
「ではこちらはいかがでしょう？」
最後に渡されたのが灰色の石。触れると、ぼろり、と崩れてしまいそうな砂の塊のような石。しかし実際に手にしてみるとそうでもない。しっかりとした固さと重みがてのひらへと伝わる。
「あ…」
「ほお？」
「これはこれは…」
未来自身もびっくりした。指のすき間から少しずつ少しずつ光がもれ始め、やがて石を握る手全体が白い光に包まれていったのだから。
光は未来が恐る恐る灰色の石をリョンカに返すまで続いた。…リョンカは試石は太陽の光を反射している、と言った。だが本当は太陽の光に反応して石そのものが光を発しているのかも知れない。未来がかたく、しっかりと握り締めているにもかかわらず、石が発していた光は部屋中を明るく照らし、思わず目をそむけてしまうほどに強かったのだから。それは今が昼間という時間帯なのに皆の目に強烈な光源となって残った。
「…こんな色なんだ」
ほう、と息を吐きながらディクシィ。
「初めて見ちゃった。他のはそれぞれ光に別の色が着いてるのにね」
「そうだな。俺も初めてだ」
「闇の石『ダルカイド』、光の石『ライトダイン』、灰の石『アシュデシス』と。それぞれの光はどれも純粋なる無色なのでございますよ。色の無い光は白く見えまする…」
未来から受け取った石…灰の石『アシュデシス』の試石を丁寧に箱へしまう。
「ミライさんはアシュデシスと合うお方のようですな」
「…はあ」
「大変に珍しいことですが、前例がないわけでもありません。どれ、このリョンカが持てる知識と技術を集めて良き武器をご提供いたしましょう。…明後日にまたおいで頂けますかな？」
「はい…」
「承知いたしました。…ではこれにて…」
やはり姿勢良く椅子から立ち上がる…。
「おお。失念しておりました。まことに申し訳ありません」
軽く額に手を当てて、ハリエルを見る。俺？ と自分の鼻を指すハリエル。
「お待たせしていた新しい武器の鍛造に成功したのですよ。今朝はそのことでお知らせしたのですが、入れ違いになったようで…大変申し訳ありません」
「いや、俺が勝手に気にしていただけだからな。…そっか、ついに出来たか…そりゃ楽しみだな」
「さ、こちらへどうぞ。皆様も、ぜひ」
奥の部屋を出て、一旦店内に戻る。先ほどまでの陽光から薄暗い店内へ。…目が、少し慣れない。
ふと…未来は思いついて前を歩くディクシィの肩をつつく。
「？ どしたの？ ミライ？」
「あのね、石が合うって…結局どういうことなの？」
未来の方を向くため、しばらく後ろ向きに歩くディクシィ。もちろん、そんなことをすればこういうことになる。
「…何すんだ、このバカ女！」
さらに前を歩いていたハリエルの背中にぶつかり…その勢いでハリエルが前につんのめり…商品を乗せてある手押し式のカゴのへりに額をぶつけてしまう。そしてカゴには無数の短剣が無造作に（一山いくら、なのだろう）詰めてあって、それらはもちろん刃物なのだから…。
「俺を殺す気か！ 見ろ、あとちょっと俺の目ん玉串刺しだぞ！」
彼がぶつけたへりのすぐそばできらりと光るものが。
「んははは、ごめんごめん。ちょっち後ろ向いててさ」
「こんな場所でンな歩き方すんな！」
「あ、あの、ごめんなさい。わたしが、その、いきなり話しかけたから…」
申し訳なさそうに言う未来を見ながらぼりぼりと頭をかくハリエル。
「あー、でもなー…」
「何をしておいでです？ こちらですよ？」
リョンカの声にととととっと駆け出してしまうディクシィ。まあ、いいか、とかつぶやきながらハリエルも続く。そして未来もその後に続くのだった。
そんなリョンカが三人を案内したのは今度は地下。やはり店の奥…とは言ってもさっきの部屋とはまた違う場所に下へと続く階段があって、そこから地下へ向かう。しっとりと苔むした壁やじめっとした石の階段は滑りそうだ。規則正しく火がともしてあるが、店内よりは少しはまし、という程度の暗さ。
「あ。ここならミライの疑問にも答えられるね」
「きちんと前見とけ、このバカ」
そんなに深くはない、と思う。恐らく地下一階とかそれくらい。そこに大きなドアがあって、カギを開けたリョンカが力いっぱいドアを開いていく。
