何もない空間。
…というわけではなかった。小さな明りをリョンカが着けてくれる。それに目が慣れてくると石を敷き詰めたなかなかに広い空間だ、ということがわかる。天井が高いように感じるのは、実際はそれなりに深く潜ってきたということなのだろうか。
天井からは石のすき間から小さく光が漏れてきている。…あれは外の光なのだろうか。
「さあ、ハリエルさん。お待たせしました…これがその武器でございますよ」
いつの間にかリョンカが剣らしき細長い武器をハリエルに差し出している。
「へえ…レシピは？」
「ファリアナイトにダルカイドを少々、というところですか」
「他にも入ってるんだろ？」
「それはもう」
ひゅん、ひゅん、と軽快に空を切る音。大分目の慣れてきた未来にもそれが細身の剣だ、ということが見えてきた。ハリエルがいつも背負っている大きな剣とは違うようだ。
「へえ〜なかなかカッコいいじゃん」
「そっか？ へへ。…なあ、試してもいいのかい？」
「もちろんでございますよ。…ああ、ミライさん、こちらへ。そちらはあぶのうございますよ」
…何が危ないのだろう。ここまで剣が届くはずもないのに。
そう思ったが、リョンカに言われるまま、ハリエルの後ろへと回る。ディクシィは最初からその位置。
ハリエルは何やらリョンカと話している…。
「ね。さっきミライが聞いてきたよね。石が合うとどうなるか、って？」
「うん…」
「これ見てたら分かるよ、多分。新しい武器だからね、リョンカにきちんと用法聞いとかないと。お、始まるかな…？」
リョンカが一礼して下がる。そしてハリエルが剣を持った右手を突き出すように、新しい武器を構えて…
「ふん！」
素早く突き出す。その動きは未来もテレビで観たことがある、細身の剣で突き合うスポーツを思い出させた。しかし、目の前に広がる光景は見たことがないものだった。
一直線に炎が走る。ハリエルが突き出した剣先から、ふ、と炎が生まれる。それはハリエルの突き出す動作と共に前へと押し出され…いや、撃ち出されるのだ。炎の球は真っ直ぐ前へ進む。後ろに炎の尾を引きながら。まるで一直線に炎が走ったように見える。
「へえ…いいねえ、いいねえ。こいつあ、使えるぜ」
何度か試してみたハリエル。上機嫌なのは武器が気に入ったからだろう。
「『ダークフレイム』…炎にダルカイドの集中性を加えたものでございますよ」
「うん。こいつの『フレイムブリーズ』が炎に…ライトダインの散開性だったか？ を加えたもんだろ？」
背中の大剣を再び指してみせる。
「こっちはぱあっと飛び散るからな、一点に集まる炎ってんなら…使いようによっちゃ色々できるな」
未来は目の前で起きたことがうまく飲み込めていない。
「ね？ こういうこと。合う石で作った武器なら色々できるの。精霊様のお力とはちょっと違うけど、似たようなことも…って、ミライ？ 大丈夫？」
…うえ。何…何なの？
とりあえず…とりあえず。ハリエルの剣から炎が飛び出した、そういうこと、そういうこと。
「う、うん。だいじょぶ…だいじょぶ」
「あたしも持ってるの。ほら」
ディクシィがポケットから取り出したのは指のない皮の手袋が一組。甲の部分に金属を使ってあって、拳をガードできるのか…あるいは相手へのダメージを増やすことができるのか。よく見ると右手用と左手用で形が少し、違う。
「これはね、手にはめて…使うの。ほら？」
手袋…グローブだろう。慣れた様子で手にはめて、指を開いたり閉じたり。指の部分がないから動かしやすそうだ。
「もちろんあたしに合った石が使ってあるの。ここに」
甲の金属の部分を指して、にっこり。
「でね。武器ってそれぞれに名前がついてるのね。作った人だから…リョンカがつけるんだけどね。こっちが」
右手を小さく上げてみせる。
「シシテマリ。で、こっちが」
左手。よく見るとやはり金属の形や色が違う。右手用は鋭いが、左手用は丸っこい、といったところか。
「ハナマツリって言うの」
「…で、やっぱりそういう名前かよ」
「はは。こればかりはどうにもならないものでございますよ。出来上がった瞬間に私の頭の中へ自然に浮いてくるものでございますから」
「武器の性能はいいんだがな…この名前だけはどうにかならないもんかね。ええと、こいつは…」
「クロヒメでございます。そちらの大剣はクレナイでございますよ」
