…シシテマリ…ハナマツリ…クロヒメ、クレナイ…。
どこかで聞いたことがある。そのはずだ、と未来は思った。さっきまでなんで炎が出るの？ 何がどうなってるの？ とかそういう思いで頭の中がいっぱいだったがその名前を聞いた瞬間、もやが晴れるようにクリアになってきた。
…どこで、聞いたんだろう…。
そう言えば単語の響きがどこか違う。そんなことも思う。ここはディクシィが使った（無意識に、だが）『地走り』とか、そういう響きがあまり似合う町ではない。どちらかと言えば横文字の、もっと海外と言うか外国っぽいと言うか。そこへこのあまりに違う印象を受ける名前。
「『ダークフレイム』も自分でいじったりできるんだろ？」
「もちろんですよ。『フレイムブリーズ』同様、ハリエルさんの思うようにある程度設定を変えることもできますよ」
そう、こういった名前の方がしっくりくる。これは人種の見た目や町並みだけの話ではない。
…人の名前がそうだからかな。
そんなことも思う。もしハリエルやディクシィがもっと違う、漢字めいた名前だったらこういう印象は持たなかったのかも知れない。
ハリエルはもう少しリョンカに用がある、というので未来は先に外に出ることになった。ディクシィも用があったのだが、すぐに済んでしまったので未来と一緒に外に出ている。
「あたしの武器の魔法力はね、これで十分なの。ハリエルほどたくさんは使わないからね」
リョンカの仕事は武器を作って売るだけではないと言う。
「武器ってね、色んなことができるんだけど…そのうち力が、魔法力がなくなっちゃうのね」
武器屋の前。やはりキズのあるドア。飲食店ではないので外にテーブルや椅子があるわけもない。未来はごつごつとした石造りの壁によりかかるような姿勢。ディクシィはちょろちょろと未来の周り歩き回る。他の人からは誰かと待ち合わせでもしているように見えるだろうか。それとも武器屋で買い物をした二人組が何か話している…と思われているのだろうか。
それにしてはディクシィの様子がまるで普通である。夕食の買出しに来た途中で話し込んでいる、とかそういう風に本当は見えているのかも知れない。
「魔法…力？」
「うん。精霊様のお力に対して魔法力って呼んでるの。まあ、大抵は武器ね。武器の原材料になってる石があるでしょ？ あれって元々魔法力が入ってるんだって。それがオモテに出てきたのがハリエルならクレナイの『フレイムブリーズ』と…新しく買ったやつの『ダークフレイム』ってことになるの」
「なんか、すごい名前」
「そっかな、まあ、普通だと思うけど。あたしのシシテマリは『パワーレイズ』って力増すやつだし。ハナマツリは『スピードレイズ』って速くなるやつなんだけどね」
名前の響きが違うように思うのは未来だけのようだ。
「でね。原材料の石に元々入ってる分はすぐになくなっちゃうの。でも原材料の石と全く同じ割合の別の石があって、相性のいい人が一緒にいれば魔法力を補充できるの」
…？
「あ。…分かんない？ あたしの言ってること？」
「うん。なんか…悪いんだけど」
「えっとね。リョンカってさ、武器作ってるでしょ？ てことは自分が作った武器はどんな石でできてるか詳しく知ってるってことじゃない？」
合う石と合わない石があることはさっきまでのことで未来も理解している。そして合う石があれば色んなことができる、ということも。そしてリョンカが7種類の石の組み合わせや量を変えて「合う武器」を作っている…ということも。
だから未来は一つ、うなずいた。
「そしたらね、質はどんなのでもいいんだけどね、ほら、ハリエルが投げてもどーでもいい短剣持ってたじゃない？ あれはあんまし質が良くないってリョンカ言ってたよね？ ああいうのに使ってるやつでもいいから武器と全く同じ割合に合わせた石を新しく作っちゃう」
「そして武器に合う人…クレナイならハリエル、シシテマリならあたしかな…がどっちかの手に武器持って、どっちかの手にその石を持つの。それからちょちょっとリョンカが何かやると魔法力が補充されてまた色々できるようになるってわけ。あ。さっきあたしの武器に補充した時に見せれば良かったね。まあ、でも、これから何度か来ることになるから、その時でもいいかな」
…充電とかそういうのかな。
それが本当に正しい認識なのかどうか、未来にはよく分からない。だけど、そういうやり方もある…とかそういうことだろう、と思うことにした。
「その、作った石はどうなるの？ 魔法…力を補充すると」
「ただの石みたいになっちゃうの。ま、質があまり良くないから大抵はそれっきりじゃないのかな。武器には質のいいのを使うから何度も何度も補充するんだけどね。えっとね、何だったけか。よーりょー、だっけか。質のいいものほどたくさん高純度の魔法力を込められる…だったかな。なんかそんな感じ」
