ディクシィにしては珍しく？きちんと干せた、と言う。やはりいつもあんな感じなのだろう。
そういう運命と言うか性質なのだろう、と未来は思うことにした。…いや、なんだかそういうこと全部がどうでもいいような気がしてくる。何せ足も腰も全く言うことを聞いてくれないのだから。
椅子に腰を下ろす。そおっと座らないと色々なところに響いてきそうな気がする。
ベッドは今、シーツも洗濯しているしマット何もかも全部取っ払ってしまっていて、何枚かの木の板がむきだしの状態。木の板と言っても薄っぺらいものではない。かなりしっかりと頑丈な木材を使っているようだ。何か重いものを乗せたりしてもそうそう壊れたりしないだろう、というくらいに。
…そんなベッドだから横になりたくない、というのではなかったりする。本音ではちょっと休みたい、そんなところでもいいから寝転がりたいのである。しかしそんなことしたら、この腰と固い板が接することになる。そういうのは…ちょっと怖い。
「大丈夫？」
さすがのディクシィもちょっと心配そうだ。
「うん。…だいじょぶだいじょぶ」
自然と上体をひねって椅子の背もたれを抱え込むような格好になる。自分の腕を背もたれの上に置いて、そこへ頭ごとあずけてしまう。背中や腰が触れないようにするにはこうするしかない。
…はあーーっ…。
どうやら未来はしばらく動けないようだ。その間にここにいない人物…ハリエルを追ってみるとしよう。
ハリエルはソケイの頼みで買出しに出かけていた。これも立派な仕事の一つ。どうしても量が多くなるので男性が中心となる。
「ええっと…これくらいか？」
両手それぞれに紙袋を二つずつ。そして背負うようなバッグはこれでもか、とふくらんでいる。厚さからするとハリエルが倍になったくらいはある。もっと大きくて量の多い品は配達してもらっている（宿屋でマリカが担いでいたのもそんな物資）のだが…こういった細かい買出しは宿屋の連中の仕事にもなっている。
内容は雑多そのもの。調理場で使うスパイスから修繕用のクギから。だから毎日必ず行く、というわけではない。
「まだだな。石屋に行かないとな」
「…それはお前の用事だろ。ソケイに言われた分はこれで全部だろ」
「ふむ。そうとも言う。だがオレは石屋へ行く。お前はどうする？」
「俺は…ちょっとだけ付き合うとするか」
「さすがだ。そうくるとは…さすがだ。ハリエル」
「何がさすがなんだかよ…相変わらず分かんねえ奴だ」
ハリエルと一緒に歩いているのは未来と話したこともあるヤッシ。背の高い青年で、なぜか様々なものを持ち歩いていて何かあると周囲に売りつけようとするクセがある。もちろん今はハリエルと同様にあちこちに荷物を持っていたりする。
そのハリエルはあの大剣を背負っていない。…いや、背負えない。これだけの荷物を背負いながらあんな大きな剣も背負うのは無理。代わり、と言ってはなんだが新しく手に入れた細身の剣を腰に帯びている。
ナンタイコウの町は昼前ということもあって、やはり賑わっている。歩いているのは子供からお年寄りまで男女含めてそれなりの数。そしてあちこちに並ぶ店はもちろん、露天商のような連中もにぎやかな呼び声を上げている。町の中にはこういった露店を開いてはいけない場所もあるが、大抵の場合は「場」の持ち主である店の軒先を借りている。
だから場所によっては魚屋の軒先に干物を売る露店があったりするが、場合によっては菓子を売る店の軒先に漬物を売る露店があったりする。そういうミスマッチ？が楽しめるのもこの町の味なのかも知れない。
大荷物背負ったハリエルたちが足を止めたのは…そんな露店のうちの一つ。
「おお。ここにあった」
「露店は何日かしたら場所変えるからなあ…ラッキーだったな、こんなすぐに見つかって」
店番をしているのは無口な女性。なぜか顔の下半分を布で隠して目だけ出しているのでどんな顔をしているかも分からない。それどころかほとんどしゃべることもないので名前もどこから来たのかも不明だったりする。
謎に満ちた女性。何度か来た顔が来ると一応、という感じで軽く頭を下げたりするのだが…。
「よう。今日は何がある？」
こういう露店はゴザなどの上に商品を並べておくのが普通だが、ここではゴザはあっても商品はない。代わりに座っている女性の後ろにいくつかの箱のようなものがある。
ヤッシに問われてゆっくりと立ち上がり…箱を少し、探る。別の箱に手を伸ばす。そんなに時間はかからない。
やがて…箱から出してきたのは小さな石だった。見た目は普通にどこにでもありそうな砂色の石。しかしヤッシの顔色がちょっと変わったからありきたりな石ではないのだろう。そして…ここは石を専門に売っている店なのか、と言うと実はそうでもないのだ。
