「武器は…どうしようか…アシュデシスのいいのが入ったが…」
なお、いくら武器が作れても魔法力の供給となるとまた違った技術と経験が必要になってくる。だからヤッシのようなアマチュア武器職人たちはレシピだけを詳細に記しておいて、いざ供給という時にはリョンカの世話になる。リョンカもそれを知っていて割引で供給してくれたりする。
さらにヤッシたちはああいった『石屋』で買ったものを他へ売ったりもする。珍品好きなコレクターはもちろん、やはりこういった珍品を探し求めるバイヤーのような連中にまで。そのため彼らのようなアマチュア武器職人はナンタイコウの商人の間でもちょっとは知られた存在になっている。もちろん冒険者として、武器職人として、ではなく様々な品を仕入れてくるから、である。
「もういいんだろ？ 戻ろうや。昼メシが待ってるぜい？」
「ハリエルは、他に買うものはないのか？」
「…特にねえよ。さっさと帰ろうぜ」
「いやに早く帰りたがるな。いつもならどこかに寄って行こう、とか言うのに」
「そっかあ？ いや俺ハラ減っちまってよ」
抱えている紙袋を軽く振り回そうとして…中身がこぼれそうになってあわてて止めたりしている。
「…そういうことなら、まあ、いいだろう。帰ろう」
「何だよ、何かあんのかよ」
「何も。いや、何もないのだよ、ハリエル」
「変なやつだな」
宿屋に戻ったハリエルは、ヤッシと共にマリカのところまで行き（いなければソケイのところへ行く）立て替えた分の代金をもらう。マリカは宿屋の食堂の裏にある厨房…やはり台になる木箱が並んでいる…で昼メシの仕込みの真っ最中。エプロンで手を拭きながら出てきてヤッシから『領収書』を受け取る。
代金を受け取るには店からのこの『領収書』が必要になる。ただし領収書と言っても紙切れに値段と店名が書いてあるだけ。つまりは普通に買い物するのならこういうものはまず必要ない、ということでもある。ナンタイコウのお役所とかそういう公的な買い物でもない限り、こういうものが必要なのはマリカの宿屋くらいかも知れない。
「ほお…えらい安かったんやな」
わざと高く申告して差額をちょろまかそう、とする不届き者もまれにいることはいる（当然安く申告しても意味はない）。しかしマリカとソケイはこの完全手書きの領収書がニセモノかどうかなどはすぐに分かる。長年付き合ってきている店が相手なのだから。
「ま、俺というスーパーな商人がいたからな」
「ヤッシはいつもたしかに安う買うてくるけど品物がいまいちやったりするからな〜？」
「ならばチェックしてみればいい」
紙袋がずらり。…マリカはそれらをちらっと見ただけでにやり、と笑う。
「冗談や冗談。あんたの選定眼と情報網、うちは頼りにしてんねんで。…じゃあ、後は買うて来てもらったもんを全部倉庫へ運んでもろたら今日の分は終わりや。昼メシ食ったら好きにしいや」
「おーい、何やってんだ。メシ食いに行くぞ」
二階の自分たちの部屋にハリエルが顔を出したのは…そんなに後ではない。ドアを少し開けて文字通り顔だけ出してみると。
「…どうした？ 何かあったのか？」
ベッドに寝てる未来の姿。しかしあおむけではなくうつぶせである。そばには少し困った顔で椅子に座っているディクシィ。
「うーんとね…何と言うか…働きすぎ？」
「まだ昼前だぜ。何言ってんだ…具合でも悪いのか？」
「いや、えっと…そうでもないんだけど…ちょっと…」
「昼とは言えメシはしっかり食わねえとな。おら、行くぞ」
ベッドに投げ出してある未来の左腕に手を伸ばす…。
「あ」
「…どした？ 俺、なんかまずかったか？」
「…ううん。なんでも、な、い…」
とりあえず起きてみよう、と半身を起こしてみる。…やっぱ力入らない。
「ディクシィ、そっち抱えてくれ。俺がこっちから抱える」
「…だいじょぶ？ 行ける？ ミライ？」
「う、え、あー…」
「ほら起こすぞ、それっ！」
それはしばらく食堂での話題を独占する出来事でもあった。
階段の方から「あ」「ぎゃ」「ぐ」「あがが」などのこもった悲鳴が一段ずつ下りてきたかと思うと、昼メシでほぼ満員の食堂へ出来の悪いかかしのごとく両側から抱えられた未来が姿を現したのだから。
