「あたしはカノン。ライカ姉とヤッシ、それにニコと組んでるのさ」
姉、と呼んでいるが姉妹ではないと言う。
「従妹になるのですわ」
平然、とおしとやかな口調。自分のせいで未来が危うくそんな油を飲まされそうになった…という意識があるのかないのか。
「しかしま、大変だったな。ライカ姉はちょっと抜けてるとこあるからな」
「まあ、カノンったら。あなたも時々そそっかしいですわよ」
「はは、そう言うない」
ぱーん、と肩を叩く。見た目と音は結構派手だったのだがライカは微動だにしない。慣れているのだろうか、こういう従妹の言動には。
ライカとカノンはこれから武器屋へ、リョンカのところへ行くと言う。あなたたちもどう？ と誘われたのだが未来はそれどころではない。丁重にお断りすることになった。
とりあえず痛み止め（今度はホンモノ）を飲んでみた未来だったのだが。…無理にでも体を動かさなければそれほど痛みはないのであるけども。それでも…痛みが少しは和らいだようなそうでもないような、なんだかどっちつかずの状態。
「ほい、パンの追加な。そっちは？ 茶かい。ちょっと待ってな」
いつの間にかカウンターには小柄な男性…男の子？がいる。マリカほども小さくはないのだが、未来よりも小柄に見える。ただし、その動きは俊敏そのもので素早いことこの上ない。
「ハリエル、ほれ炒めメシだ。…ったくよお、お前ほんとよく食うよな。これで三杯目じゃねえか」
「別にいいだろハラ減ってんだ。あともう一杯くらい頼むぜ」
「…ディクシィよお、こいつ、こんなんでいいのか？」
「みんなで食べる分の食費以外は各自で、ってことになってるからね。その範囲内なら…別にいいんじゃない？」
そこで、あ、と気づいたように未来を振り返る。
「ミライはまだお金持ってないもんね。お仕事こなしてないから仕方ないよ、しばらくはあたしが持ってあげる」
「お仕事？」
「そ。内職とか冒険者としてのお仕事こなさないと報酬が入らないからね」
たしかに未来は今、無一文である。気にはなっていたのだが。
「明日武器が出来たらちょっと出かけてみようよ？」
「隠者の森とかいいんじゃねえか？」
ががががっと皿ごとかきこむハリエル。
「あそこなら初心者向きだしな」
「そだねー…」
「ああ、あんたが新入りのミライって人かい」
両手にお盆を持ってその上に茶のポット・パンの入ったバスケット・焼いた肉らしいものが乗った皿（ナイフとフォークもついている）・スープが入った壷とカップ多数、とここまで乗っていて微動だにしない。それどころか余裕のある表情で、に、と少年っぽく笑ってみせる。ついでに頭から足まで見回して、何か納得したような顔になる。
「なるほどね」
「は、はあ…」
「おいら、ニコってんだ。さっき来てたライカやカノン、それにヤッシとは同じパーティなんだ。よろしく頼むぜ」
さすがに握手はできないから、軽く頭を下げて…未来の返事も待たずにカウンターの中をさっさと歩いて行こうとして…やっべ、てな顔になって戻ってくる。
「で、何にすんだ？ 今から昼メシだろ？」
「ニコってね、ハリエルと仲がいいんだけど」
「あんなのと仲なんかよくねえよ」
「いっつも一緒にいるじゃない。時々どついたりしてるし」
「ありゃあ…まあ、なんだ、なんつーか…腐れなんとかってやつだ」
頼むのが遅れたせいか、食堂の騒動も一段落ついたらしい。人の数も大分減ってきている。そこへその当のニコがお盆持ったまま、未来のとなりに腰を下ろす。奥からハリエル・ディクシィ・未来・ニコの順に座っていることになる。
「何が腐ってんだよ。あー…さすがに疲れたぜい」
「あれ？ もう終わったの？ 今日の分？」
「そうだよ…今日は朝番だったからな。まー、これだとまかないが付くからその辺は助かるんだけど、よ」
お盆にはライスと野菜炒めのような料理と小鉢にはちょっとした一品、そしてスープがついている。どこかの定食のようでもある。
「よく足りるよな、そんなんでよ」
すでに炒めメシを何皿も平らげているハリエルにはそう見えるのだろう。未来たちの前にはさっきニコが運んできたパンとスープ、それに蒸した鶏肉に甘辛いソースがかかったものが並んでいる。別に串に刺した肉があるのは…ハリエルに全部食べられてしまわないためだろうか。明らかにハリエルと料理の境界線となる位置にそれは置いてある。
