「なかなかカッコええやろ？ こいつはええダシが出んねん。はさみや身は他の料理にしてまうけどな、カラやミソなんかはスープにするのが一番やな」
「うん。あたしもホマルのスープって大好き。これが出てきたら当たり！ とか思っちゃう」
「ナンタイコウの人間やったらたいがいそんなもんや」
ロブスター…のスープ…？
食材としてはたしかにそうそうお目にかかれるものではない、未来がいつもいる世界なら。高級食材である。でも当たり前に獲れて安価な地域だってあるのだろう。そういう地方ではこういう食べ方をするのかも知れない。そう言えば…
…カラとかミソからダシをとる、ってのは誰かが言ってたっけ。
マリカの言うように身は他の料理に使ってしまって、残ったカラを細かく砕いてダシをとる。するとかなり強めのダシとなる。そう、「こっち」だけの調理法ではない。誰が言っていたのか、ちょっと考えてみて…すぐに思い当たった。
父・羽佐人である。海外の…どこだったか、海辺の町でそんな食べ方をするところがある、と何かの時に言っていたのだった。
「カラは焼いてもええねんで」
「そうなんだってね。あたし、この間それ聞いてびっくりしちゃった」
ダシのとり方の一つ。焼いたカラからもいいダシが出る。
「でもさすがに身の方はねー…」
鍋の端から乗り出しかけていたホマルの鼻先を、ちょい、とつつくディクシィ。
「結構いい値段するんだ、これが」
「何言っとんねん、これでもうちはやっすい方なんやで。普段普通に働いとる一般のご家庭なら十二分に満足できる値ぇや」
「でもあたしらだとねえ…」
「そんならぎょうさん稼いで何の遠慮もなくホマルくらい腹いっぱい食えるようになりいや。いくら冒険者言うてもそんなんもおるし」
「…そうなんだけどねえ…」
格差とかそういうものを感じてしまう未来ではある。それでもどんな感じの家庭が一般的か、とかそういうのも分からないのだから、どこまでディクシィに共感できるかは…それも分からない。
「ほな、うちはこれをさばかなあかんからな…今日はなんやヒマっぽいからな。まあ、ゆっくりしとったらええ」
「今日はミライの武器がくる日なんだよ？」
「ほお…そらええことや。まあ、頑張りや」
鍋を抱えるように…正しく両手両腕で抱えるようにマリカは厨房へ。この間、新しい客は誰も入って来なかったのだから…たしかにヒマはヒマではある。
…そう言えば…武器か…。
どんなのができてるのか、その辺も不安ではある。それに…『武器』と言うからには何かに対してそれを使わないといけないのだろう、という不安。
「…大丈夫かな…」
「何が？ あのまほーけんしとか？」
「そうじゃないんだけど、武器」
「ああ、それね。まあ、考えすぎない方がいいんじゃない？」
スープをごくり、パンをぱくり。
「リョンカはね、必ず合った武器を作ってくれるの。ほんと間違いないんだよ？ 合わなくて体調崩すとかそういうこともないし。だから楽しみにしてたらいいんじゃない？」
楽しみ…というのとはまた違うような気もしているのだが。ま、いいか、とりあえず食べてから、実物見てからにしよう…とパンを食べてスープを飲み始める未来だった。
ハリエルが戻ってきたのはパンがあらかた片付いた頃合。首をぐるりと回したりしながらガトと一緒に宿屋に入ってくる。
「ただい…お、なんだまだ食べ始めたばっかかよ？」
「何言ってんだか。そろそろ終わりよ」
「おいおい。この量じゃ食ったうちに入らねえよ。…おうい、リンチャ、炒めメシとパン、追加な？」
遠くで、ほいほーい、とかそんな声が聞こえる。大きく息を吐きながらディクシィのとなりにどっかりと腰を下ろす。
「リョンカのとこも行ってきたぜえ。…ミライ、もうできてるってよ。これ食ったら早速行ってみような」
「う、うん…」
「あきれた。わざわざ武器屋行ってきてたの？」
「ち、ちげーよ。ついでだついで。ついでってやつだ。…お、来たな来たな。これがねえとな、一日が始まんねえな」
相変わらず大皿に山と盛られた炒めメシ。
「ったく。…こんなんで一日が始まるなんざ、めでてえやつだ」
ガトも呆れ顔である。音もなく、す、とテーブルの上、未来のとなりに跳び乗ってくる。
「いよいよ『でびう』ってやつだね。おいらも行くし、まあ、気楽にやったらいいさ」
リンチャがもってきたミルクの…ぺろり。
気楽かなあ、そんなもんかな…とは思う未来ではある。
