意外と早くハリエルが炒めメシを食べ終えて（おかわりは一回だけだった）リョンカの武器屋へと向かうことになった。
昼前のナンタイコウの町。宿屋もそれなりにヒマだったがこちらものんびりと時間が流れているように見える…。
ハリエル・ディクシィ・未来とガト。ガトは二本足で歩いたり時々未来の肩に跳び乗ってきたり。何しろ地面からいきなり肩に乗るのはさすがのガトでも難しいから、一度背中に軽くツメ立ててよじ登るような格好になってしまう。そのたびにびっくりしてしまうのだが、当のガトはそんなこと気にしていないようだ。未来の肩に飽きる？と今度はディクシィやハリエルの肩にも登っていく。
そんなガトの光景も町の人にとっては普通の風景なのだろうか。誰も気にする様子はない。
ディクシィの話によれば昼になると少しは人も出てくる、とのこと。「おっきなみち」には屋台が並ぶものだが朝方に出てから一旦店じまいして、昼過ぎに再び営業開始、という屋台も少なくないのだとか。これは朝食から昼食の間はまず客が来ないから。朝と昼過ぎから夕方にかけてに集中して稼ごう、ということらしい。
「隠者の森から帰ってきたら、なんかの屋台に寄っていこうよ」
「そうだな。それくらいの時間だろうしな」
「行く前に食っとくって手もあるねえ」
「そだね。軽く食べてから行こうか」
…なんか、みんな落ち着いてるなあ…。
やっぱり『武器』というものが非常に気になってしまう未来ではある。
リョンカの武器屋は昼前、ということもあって…あるいは今日のナンタイコウのように…客もほとんどいないような状態。
「これはこれは…お待ちしておりました」
店先で胸に手を当て、深々と頭を下げてみせる。いつもの丁寧なリョンカ。…その肩へ、ひょい、とガトが跳び乗る。もちろん背中を一度経由しているのだが、そんなことがあってもぴくりともしないのがリョンカでもある。
「おや。これは…お久しゅうございますな、ガト・カッツェ様」
「たしかにこいつは久しいってもんだ。調子はどうだい？」
そっとディクシィに聞いてみる…。
『知り合いなの？ 二人って？』
『うん。かなり前から知り合いだってさ。それにガトは有名人だからね。あ、有名猫か』
「まあまあでございますよ」
「そうかい。そいつあ何よりだ。いいも悪いもねえってなあ、何よりだあね」
「恐れ入ります」
「さ、ミライに武器を紹介してやってくんな。それ持ってこれから隠者の森へ行くんだ。でびうってやつだね」
音もなく床に降りる…。
「隠者の森、ですか」
「そうだよ。隠者の森だ」
「なるほど…」
「ああ。隠者の森へ行くんだ」
それほど深い付き合いでもないのだが、なぜか、未来にはリョンカとガトがいつもと違う表情をしているように思えた。これまでに見たこともない、と言った方がいいのかあるいはあまりにも似合わない…と言った方がいいのか。暗い、だけではない。むしろ期待に満ちてはいるのだがそれほど明るくはない…とそんな表情だろうか。
そんな表情にハリエルとディクシィは気づいていないのかそれとも何も感じないのか。
あの地下に案内される。なんとなくだけどやはり心臓の鼓動が早くなっている…ような。
…大丈夫かなあ。
そればっかり考えてしまう。
「さ。これでございますよ。ミライ様」
リョンカが両手で差し出してきたのは…大ぶりの短剣。簡素な装飾の柄。しかしその刃の幅などは片手の指を全部そろえたほどもあるだろうか。そう、あの時の啓児の指先のように。
「どうぞお持ちになってみてください」
「…あ、軽い…」
見た目からずしりとした重さを予想していたのだが、まるで羽毛のよう…とまではいかないだろうか。でも気になるほど重くはない。でも存在感はある。
「レシピはもちろんアシュデシスが主体でございます。そこへ風のサリウサイトとダルカイドにライトダイン」
「…うわ。聞いたことないくらい光闇灰ばっかりだわ…」
ディクシィがため息をつく。
「そうなの？」
「うん。ま、普通はさ、地水火風が主体だからね。地と光が少々とかそんなんだから。…やっぱり特別なんだねえ、その短剣。それともミライが特別ってことなのかな？」
そうかな…と思ってしまう。特別ってなんだろ…？
「で、どんな効果があるんだ？ 攻撃系か？ いや普通のとは違うからな…特殊効果系ってやつか？」
「はは。まあ、落ち着いてくださいませ。その前に一つだけ。…実は私も確実な効果、というものを確認できなかったのでございます」
