「しかし…興味深い事象ですな」
あごに手をあて、やや考え込んでいるようにも見える…リョンカ。
「リョンカもシノノメがスピードレイズ使えるって知らなかったの？」
「左様でございます。スピードレイズを発動できるレシピにはサリウナイト、つまり『風』が必要なのでございます」
「…精霊様のお力とは違うんだ。『地走り』は地のダリオス様と火のファリアイ様の承認が必要なんだけど」
「武器の場合は、ちと用法が異なっておりましてな。スピードレイズには『風』と『火』もしくは『風』と『土』を必要とするのでございます」
再び、ふむう…と考え込む。
「つまり…どういうことだよ？」
「シノノメには微量のサリウナイトは含まれておりますが、ダリオサイトもファリアナイトも含まれておりませぬ。通常ならば発動できるはずがありませぬ」
「できるはずのねえ能力が出てきたってこったな」
床にころりと寝転び、後ろ足を大きく開いて、ぽりぽり。
「リョンカよお、お前さん、さっき面白えこと言ってたっけねえ」
「…はて？」
「確実な効果を確認できなかったってな。でも確認できるもんもあるって、そんなことも言ってたねえ？」
「ああ、そのことでございますか。…ミライ様、シノノメを少々お借りしてもよろしいですか？」
「あ、はい」
否も応もない。右手のシノノメを手渡す。自分だって何が何だか良くわかってないのだし。
…リョンカがシノノメを手にした途端、重そうに見えたような気がする…？
「それ、重いんですか？」
「普通の短剣よりはかなり重うございますな。そう言えばミライ様は重くはなかったので…？」
「えっと、別に」
ほう、と感心したようなリョンカ。
「武器と使用者は合えば合うほど重みを感じなくなるものなのでございます。これは武器製作者冥利に尽きるというものでございますな、合う武器を作ることは最上の喜びなのでございますよ…」
そんなものかな、と未来は思ったりする。シノノメが重い、ということに実感がないからかも知れない。
リョンカは未来がやったように右手にシノノメを構え…静かに目を閉じる。
「見ねえな。武器製作者の特権ってやつだよ」
「え…」
ひょい、とガトが肩に跳び乗ってくる。一度ディクシィの背中を経由して。
「全部ってわけじゃねえし、それほど威力は強くねえんだ。でもリョンカは自分が作った武器なら力をある程度発動できるのさ」
「そうじゃねえとどんな武器になってるか分かったもんじゃねえもんな」
うんうん、とうなずくハリエル。過去に何かあったのだろうか。
「あ。始まる…のかな？」
リョンカの右手に白い光が宿っている。それは未来のと比べるとやや、薄く小さいようにも見える。
…と思ったらそれだけである。白い光も消えて、ちょっと上気した顔のリョンカがシノノメを未来に返してくる。
「ありがとうございました」
「へ？ そんだけかよ？ 何があったってんだ？」
「確認できたのはなかなか目には見えない効果でございますよ」
「…？」
どういうことだろう。未来もデュクシィもハリエルも…顔を見合わせる。
「回復効果、つまりヒールでございます。ただし効果はごくごく微量でして…そうですなあ、ちょっとしたスリ傷を治すとかそれくらいではありますが…」
回復効果を持つ武器、というのもあるらしい。ハリエルの剣のように攻撃できる力を持っているのがほとんどだが、中には間接的な能力を持っているものもある。ディクシィのグローブもそういったものとなる。その他に特殊な効果をもつものもあり、回復効果もそこに含まれる。
…それって『武器』なのかな。
何かを害するのが『武器』のはずである。しかしそれが回復できる、というのは…なんだか違うような気もする。
「でもすげえな。回復効果だってよ？ あんまり聞かねえよな」
「そうだねえ」
「これで何かと便利になるんじゃねえの？」
「でも大した効果はないって…」
「あ。そっか…それでもすごいって、うん」
おおはしゃぎの二人だが…。
「…いやいや、おめえら待て待て。それがなんでスピードレイズなんざ使えたか…そこまでは分かってねえんだぜ？」
