…いや、何も残っていないわけではない。
「あれ？ めずらしー…バタッキなのに石残してるよ」
「ほんとだ。…ほら、ミライ。たまに、だけどな。モンスター倒すとこういう石が手に入るんだ」
…その前にあの変な鳥はどうなったのよ…。
普通の生き物なら殺されたら死体が残るはず。それもない。しかも石が残るって…未来はイシモチという魚を思い出したりして。焼き魚として何度か食卓にのぼった魚だが、アタマ辺りに大きな石を持っている。もちろんそれとこれとは全く別物なのではあるけども。
「モンスターてのはそういうもんってこった」
まだ未来の肩の上にいるガト。顔を軽く前足でかいたり、ヒゲをこすったりしている。
「普通の生きもんとも違うってことなんだろうねえ。ある程度のダメージを受けると消えっちまう。死骸も何も残らねえのさ。ただ、時々ああやって石を残す」
「石…」
「もしかしたらああいう石なんかに宿った何かがモンスターなのかも知れねえ、ってな。そんな話もあるにゃあ、あるけどな」
ディクシィがその石を持ってきてくれる。こわごわ触ってみてもただの石。どこらにでもありそうな、つるつるした灰色の石。
「まあ、バタッキだからね。売っても銅貨一枚ってとこかな…？」
「…これ、売れるだけなの？」
自分の手のひらの上で転がしてみる。…やっぱりただの石。
「そうだな。俺らにとっちゃ売るしかできねえ。リョンカみてえな武器屋とか雑貨屋だと色々使えるんだろうが、な」
武器を作ったり何かの材料にも使える石もある、ということなのだろう。そういうものを買い取ってくれる店がナンタイコウにはたくさんある。マリカの宿屋でも買い取ってくれるのだが、平均的な額だし何よりあらかじめ1割引いた額になるのでやはり専門的な店へ持っていくのが当然なのだとか。
「強いモンスターほどいい石を落とすんだ。中にはめったに手に入らねえ、リョンカでも見たことのねえ石、とかそんなんもあるって話だぜ。そんなんだったら一体いくらになるのか分かんねえな」
「じゃあ、こういうのを売ったお金の一割もマリカさんに納める…の？」
彼らが何かでお金を得ているのは未来も知っている。ちょっとした仕事をやっているだけ、とは思えないし。
「そ。でもバタッキの石だけならマリカさんも一割とは言わないかもね。これとは別に依頼されたお仕事ってのがあってね、そっちが本当のメインってやつ？ あたしたちもそのうち受けるから、楽しみにしててよ？」
楽しみに、と言われても。
「まずはそのシノノメに慣れるこったな。…ここから『隠者の森』だ。出てくるのはバタッキだけじゃねえからな、ミライも気をつけろよ？」
実際、この辺りから緑が濃くなった気がする。無論のこと『ここから隠者の森』なんて看板があるわけでもない。ただ、なんとなく…雰囲気が変わった、そんな気がする。そしてそれは未来だけではなくハリエルはもちろんディクシィも、そしてガトも感じているはず。
……………
奥へと進むうちにどんどんモンスターは出てくる。鳥のようなバタッキもいれば虫のようなのも、犬のようなものも。
「…えい」
その一匹…一頭、一つ？ …に未来がシノノメを振り下ろす。包丁で何かを切るのとは全然違う感触。どちらかと言うとただ棒を振り下ろしているだけ、とかそんなところかも知れない。シノノメそのものの刃で切っている、ような感覚が未来にはあまりないからだ。
切られたモンスターは一部だけがへこんでひしゃげて、元に戻るか…と思われた瞬間弾けて消えた。しかし今回も石は出ない。何回かこういう作業？は経験してしまった未来。
「ほとんどがそんなもんだ。…大分慣れてきたみてえだな」
と、ハリエルが今度は大剣・クレナイを軽々と振り回す。
「フレイムブリーズ」
一直線の火ではない、扇形に広がる炎。それは数匹（あるいは数頭）のモンスターを一気に消し去ってしまう。
「魔法が出る武器ってのは大抵が武器としちゃあまり良くないもんばっかなんだ。このクレナイなんかいい例だよな」
そうなのだ。未来はシノノメを振り回してみて思ったのだが、この短剣はあまり切れ味が良くない。いや、むしろ全然切れてないような気もする。そしてそれはハリエルのクレナイにも言える。見た目はぎらりと輝く大きな剣なのだ。でもこの剣で何かを切ることはできないのだ、と。それどころかうかつに何か切ろうとすると折れてしまうかも知れないのだ…と。そういうところからすると何かに「当てる」ことはできるシノノメの方が武器としてはまだマシとも言える。
ちょっと試しにそこらの葉っぱを手にとって、刃を当ててみたのだ。
見た目通りの切れ味なら、すぱっ、と真っ二つにキレイに分かれる…はずがどんなにやっても切れない。しまいには葉を引っ張っりながら力いっぱい刃に押し当てて…それでも切れない。いや、葉っぱは二つにはなったのだ。二つには。しかしそれは押し付けすぎによって葉っぱが弱ってしまい、そこからだらしなく破れたに過ぎない。シノノメという「武器」で切ったわけではない。
「あたしのシシテマリとハナマツリは、そういうのあんま関係ないけどねえ」
右足を軸に、くるりと半回転しながら右拳の甲、拳の裏でヘビだかトカゲだか、なんだかよく分かりにくいモンスターを一撃。木の枝から垂れ下がってきていたのだった。
「そういう武器もあるんだけどね。やっぱり刃のある武器はそういうの、気になるよね」
「…へ。何にでも例外はあるってな」
こういう状況でもガトはいつものガト。ごろりと転がったりのびをしてみたり。
「カノンの魔法弓…ウスズミな。あれは弓としてはかなりの優れもんだって話じゃねえか」
