curious chapter1 scene59

「そして。どうもランダムリリースはかなりの魔力を消費するようですな」
　言われてシノノメを見てみる。なんだか刃の輝きが鈍くなってきてるような…？
「あと一回、というところでしょうか。その前に試してみるのも一興かと」
「試すってな、何をだい？」
「これまでにシノノメの前で見せた技を、覚えておいでですかな？　お二人は？」
「そうだなあ…」
　背中のクレナイを、ちら、と見てちょっと考えるハリエル。

「俺はフレイムブリーズも使ったっけか。おめえは？」
「あたしは何も使ってないかな。ここでは。スピードレイズはリョンカの店で使っただけだし」
「ということは、もし次に使ってみてフレイムブリーズが出れば間違いなくスティールされた、ということになりませんかな？」
　たしかにシノノメが目の前（正確にはシノノメを持った未来の目の前）で使われた技を盗むのなら後はフレイムブリーズ…ダークフレイムとは違って拡散する炎…だけ、ということになるのだが…？
　が、ちちち、と前足の指一本を器用に立てて振って見せるガト。もっとも、その指はかすかにぴこぴこ動くだけでほとんど見えていない。
「おいおい、忘れちゃいねえかい…？　もう一つ、使っただろうに」
「ほほう、誰が何を…？」
「お前さんだよ、ベルホ。チェンジを使ったじゃねえか。シチダンカで。ほれ、そこのテーブルが…おや、もう戻っちまったねえ」
　さっきまでそこにあった白くて立派なテーブルは、もう元の重厚な揺り椅子に戻ってしまっていた。たしかに効果は長くは続かないものらしい。
「はっは、そうだったな。ガト。わたくしとしたことが…年は取りたくないものだ…」

「でも、あれも盗めるってのか？」
「恐らくな。多分魔法装具の技はほとんどいけると思うが、ねえ…？」
「そうだろうね。そしてそれをリリースすることができる。さ、ミライ、試してみましょうか…？」

　一つ、うなずく未来。となりでディクシィが小さく「がんばれー」なんぞと言ってくれている。
　…何が出るのかな…。
　目を閉じて。すう、と息を吸い込んでみる。そしてシノノメの言葉を待つ…。

「…ひーる」

　シノノメが本来持っている、かすかに傷を治す程度の技。しかも今は誰もケガなどしていないから意味などないし、それっきりでシノノメは完全にその刃物としての輝きを失ってしまった。これで魔法力が完全に切れてしまったらしい。
「これじゃあ…また町に戻ってリョンカに補給してもらわないと無理ってことね…」
　その通りである。

　それから結局すぐにナンタイコウに戻ることになった。シノノメは武器としてはあまり使えないものだし…色々試すのならやはり魔法力が必要になる。
「でもホントに容量少ないんだねえ…シノノメって」
「容量が少ないってんじゃないねえ、こりゃ。ランダムリリースが魔法力を食いすぎてんだ。よくて三回とかそんなもんかね」
「じゃあ、あまり使えねえな。他の武器でも持ってみるか…？」
「他の…武器…」
「その辺はリョンカとでも話してみるさ」
　もうすでに門番のところまで来ている。夕方を過ぎて空には夜が舞い降り始めている。だから少し急いできたのだった。なお、ベルホは森の中にいる方がいいのだよ、と言って一緒には来なかった。いつでもここにおりますから…とも言っていた。

　宿屋に戻って。今から町に出てもどこも開いてないから、マリカに唯一の収穫でもあったバタッキの石を渡してみる。「まあ初陣やからしゃあないな、次はもっとでかいの持ってきいや」ということで銅貨一枚、これを未来にくれた。初収入でもある。
　よく考えてみたら生まれて初めて何かと引き換えにお金をもらった…。
　ベッドの中で銅貨をひねくり回してみたりして。なんだか笑いたいような、深く考えないといけないような、妙な気分。
「ミライ、これでいい？」
　まくらの下にいれる『何か』である。
「うん。ありがと」
　受け取ったのは…
「…dVsjpVt…じゃ、なくて」
　…何だっけ、これ、何とかって読めるはずなんだけど…何だったっけ…。
　しかし、ぽんぽんぽん、と三回まくらを叩くとすぐに深い眠りに落ちていってしまった…。

　翌朝。もちろん手元に銅貨はない。でも感触は手に残っているような気がする。
　いつものように学校に行って…かしこは朝練があるから少し早めに出る、とメールがあった…真記と二人、教室に来た、その時。
「福田さん！」
　早めに来ていた啓児がだだっと駆け寄ってきて手をしっかりと握ってきた。痛いくらいに。

「良かった…また、また会えた…良かった…」