curious intermission1

　　　intermission 1　"いんてるめっつぉ・うーの"

　…帰還シグナル確認中…帰還シグナル確認中…

　…起動シークエンス開始…完了まで3・2・1…

　…パーソナル端末『タンブル』の正常起動を確認。引き続き火器管制システム及び機体運用システムの起動へ移行…

「…ただいま、タンブル」
『お帰りオーパス。システムの一部の正常起動を確認しているよ。今回は長かったじゃないか。この間より8秒長かったね』
「その前は…183秒短かったんじゃなかったっけ」
『それを言ったらその前の前は35678秒長かったんだよ。あの時は帰ってこないんじゃないかって心配したもんさ』
「それはすまなかったね」
　目の前の操作盤を操作する。いくつもの青や黄色のランプが灯るそれは、いつもの見慣れた光景。

「…タンブル、僕はね」
　作業はまだ終了してはいない。視線をあちらこちらに巡らせて、順序よくこなしていく必要がある。
『どうした？』
「何て言ったらいいかな」
『君が迷ってしまったらこっちじゃどうしようもないよ。言ってみるといい。思ったままのことを』
「そうだね。うん…最近、ちょっと楽しいんだ」
『ちょっと、楽しい…？　楽しいのか楽しくないのか、判断に苦しむね』
「そう。ちょっとだけね。僕にもよく分からないのさ」
『君に分からないものがこっちに分かるわけもない…でも君がちょっとでも楽しいって思うんだ。それはとてもいいことなんだろうね』

　小さな黄色の回転灯がともる。

「…ガーフ」
『遅かったな、オーパス。早速だが作戦を説明する』
「ああ」
『今回の作戦はこの地方の敵残存勢力の掃討が主な任務だ。地上戦力は300前後。しかし制空権はまだ敵にある。我々の航空戦力が制空権を完全に奪回するまで慎重に行動する必要がある。図面を送る』
　目の前の操作盤に相関図が浮かび上がる。
「これが…今回の…」
『そうだ。手持ちの命の数は確認したか？』
「いや、まだ全システムが完全起動していない」
『では完全起動後に移動を開始。情報は適宜送る。…何か質問は？』
「その…ガーフ」
『なんだ』
「なんで…僕をあっちに？」
『…休暇だ。そう言っただろう？』
「でも、なんだか僕は色々あって…」
『質問はそれだけか？　切るぞ』

　黄色の回転灯は止まって消えた。

「………」
『君は最初の頃とは大分変わったね。ガーフに対する印象も変わったのかな？』
「最初は…なんで、と思ったさ。なんで僕をあんな世界に…ってね」
　操作盤の操作は止まらない。
「でも最近は何だろうね、なんて言ったらいいのか…」
『君に分からないものが分かるわけはないよ、オーパス』
「はは。そうだね。うーん…そう、ありがとうって言いたくなる時があるんだ。ガーフに」
『それは…また大きく変わったね。驚いた。一体どんな心境の変化なんだい？』
「僕にもよく分からない。多分、あの人に会えたからだと思うけど…」

『オーパス。全システムが完全起動したよ。さ、始めようか』
「命はいくつ？」
『今回は…5つだね。全部なくなる前に作戦を完了できるかな？』
「やってみるさ」
『君は命が全てなくなった時にあっちへ行く。…ちょっと心配だな。あっちがそれほど魅力的ってことならわざと早く死んでしまうんじゃないか、ってね』
「おいおい、そこまでじゃないよ。あっちはあっちで…色々大変なんだ」
『失敬。じゃあ、始めようか』
「そうだね、始めよう。命のやり取りを」

　その機体はゆっくりと起き上がる。眠り続けていた体が揺り起こされるように。

　そしてその操縦席には操縦する者がいる。この機体の中には…ペンギンが一羽。翼の先で操作盤を操作しているのだった。