「てんこうせいって…もう七咲くんでいいじゃん」
かしこが平然、と。
たしかにあれからそれなりに時間が経っている。すでに『七咲君』はクラスになじんできている、と言っても問題はない。
「そういうこと言ってんじゃない」
「そお？」
ひょいひょいっと自分のお弁当のおにぎりを口に放り込んでしまう。後はおかずを残すのみ。
「みらいがどうおもってるのかが問題なわけでしょ？ 存在のしかたって重要だとおもうけどなあ」
「あーもう、どうでもいいの。転校生でも何とか君でも。…で？ みき？ どうなの？ んん？」
ぐい、と身を乗り出してくる。…未来は真記の前に座っているから真正面からぐいぐい押されているような状態。
「かしこもきになるな。どうなの？ みらい？」
右側のかしこも迫ってくる…。
「んー…」
どう答えたらいいのかな。
「特に…ないんだけど」
「特にぃ！ ないだとおおぅ！ おまぇ、それ、正気で言ってるのかよおおおぅ！」
「まき…だれそれ…なんでそんなに巻きじたでひくいこえなの…」
「アニメでやってたんだけど…知らない？ 結構有名な人なんだけど」
「しらない」
苦笑いの未来。
しかし何と答えたら良いのやら。
「特にないってのはホントなんだけどなあ…」
「毎日一緒に帰ってるのに？」
「帰ってるって言っても同じ方向なだけだし」
「手、握られたってのに？」
「あれは…」
…分からない。よく…分からない。
つい最近までで、啓児について分かったことと言えば
「あまりしゃべらないし」
「まあ、クラスでもあんましゃべらないよね」
最後のおかずを口に入れて、ひと飲み。目を閉じて両手を合わせて『ごちそうさまでした』とつぶやいてお弁当をしまうかしこ。
「ふむ？ あまり、ってことはちっとはしゃべってるってことになるよね？」
こちらはすでに弁当箱をしまっている。あれだけソースやら何やらがかかっていたのに、まるで何事もなかったように見事なまでにきれいに食べきっている。
「なんか話したことあるんでしょ？ どんなこと話したのさ？」
「えっとね…コンピューターだったかな、そんな話。よく分からなかったけど」
本当は啓児のいる世界、バン・ハンドルの話だったのだが。しかしあまり他人に話さない方がいい、と未来も思っている。
…ナイタイコウのことだってあんまりしゃべらない方がいいと思うし。
「へえ、意外だね」
「そうでもないよ、うちのクラスにコンピューター研のコがいるでしょ？ こないだなんかはなしてた」
「三輪君？」
「そ。なんとかってゲームのことだったかな」
「…あ、あれってそういうことかな…」
「何々？ なんか思い当たるんでしょ？ 言ってみ？ 言ってみ？」
仕方ないなあ…。これくらいならいいかな。
ようやく食べきったお弁当箱をしまって（卵焼きがちょっと不満だった、もっと丁寧に焼かないと…とか思っている）。
「実はね、武器の話もあったの。銃なのかな、多分そうだと思うんだけど…」
「…やっぱゲームなのかな？」
「そうなんじゃない？ にほんで銃、なんて。でもみらい、銃のはなしなんて…」
苦笑いしながら首を横に振る。
「全然。でも楽しそうだった。だからゲームとかそういう話だったんだと思う」
「なんで？」
「人の言葉しゃべるコンピューターとか上官が、とかそんなことも言ってたし。ゲームならそういうのありそうでしょ？」
…ゲーム、ってことにしておいた方がいいよね…？
