シノノメの扱いにも慣れてきた、と思っていたりして。とは言ってもランダムリリースの使い方がうまくなったというわけではない。
別の武器も使ってみよう、と武器屋に行ってリョンカに相談してみたのだ。
『他の武器…でございますか』
隠者の森から戻ってすぐだったから日は少し、傾いていた。その時は他に客もおらず、リョンカは店先をほうきで掃いていた。いつもはそれなりにでも客の入る店なのだが…たまにはこういうこともあるのだとか。
『ああ。どうもこのシノノメは能力が特殊らしいからな』
もちろんリョンカにはベルホの考え…ランダムリリースのことをすでに話した後のこと。元々シノノメの魔法力も補充するつもりだったし。
『魔法力の消費が尋常じゃねえ。だったら他の武器を、ってな』
『シノノメは武器としてはあんまり使えないしね』
ハリエルもディクシィもそう言ってくれたのだが。
『ふうむ…』
ほうきを脇にかかえたまま。あごに手をあてて、しばし考えてしまう。
『合う武器はシノノメ以外にはありますまい』
『そりゃあ、分かってるよ。だから能力のない武器でもいいんじゃねえか、ってな。なあ？ ミライ？』
『う、うん』
『適当に見つくろってくれ、ってな話だあね。ミライでもラクに扱える武器なんて、ないかね？』
ハリエルが持っている一山いくら、とかその程度の武器でもいいから、ということでもある。
やはりしばらく考えてみたリョンカだったのだが。
『…初心者向け、となりますとやはり定番はこれでしょうな』
店先の棚に陳列してあったその武器は
『…短剣…』
『ご存知の通り近接戦闘のみ、となりまする。遠距離の弓や弩は習熟度がモノを言いますゆえ』
ちら、と未来を見る。
『ハリエルさんのような大剣は重量がありすぎていきなりは無理でしょう。ましてやディクシィさんのようなグローブはさすがに…』
たしかに。そうなると使える武器はかなり限られてくる。
『そうなりますると…すでにお持ちのシノノメをそのまま使った方がよろしいかと』
『でもこれ、あんまり切れ味良くねえぜ？』
『そこは少し、手を加えましょう。別の地金をはめこんで強めに研いでみましょう。そうすれば少しは使えるようになるか、と』
作業そのものはそんなに時間はかからなかった。
リョンカがシノノメを持ったまま店の中に引っ込んで、しばらくハリエルたちと店先で雑談して…とそれくらいで戻ってきた。
シノノメの外見上の特徴は肉厚でてのひらほどもあるその幅。『新生』シノノメは…しかしそれほど見た目が変わっているようには見えない。相変わらず見た目だけは重そうな短剣なのだ。
『ホントに…だいじょぶ？』
『もちろんでございます。ああ、あまり刃にお手を触れませぬように。さ、鞘の中へどうぞ』
未来も大丈夫かな、と正直思うのだけれど…そこはリョンカを信用するしかない。
それから何度か別の『森』へ出かけている。
しかしそれらは全部未来の訓練の一部、ということになっている。新しくなったシノノメを試す場でもあるし…未来を戦闘の場に慣らすためでもある。
『狐狸の森』という森がある。『隠者の森』よりも大きな森で、奥へ進むとかなり強力なモンスターが現れるため、まだまだ初心者の未来を連れて奥へは行けない。しかし入り口を軽く回る程度なら問題ない。
『…えい』
以前は明らかに棒で殴っていただけ、だったのだが。今回はちょっと感覚が違った。
…うわ。切れた…。
すぱっ、と鮮やかに切れたわけではない。でも前とは明らかに違う。きちんと『刃物』で切った、という感触がある。
『どうだ？』
『うん。いいかも』
『そりゃあ何よりだ』
目の前でバタッキがぷうっとふくれ上がって、ぽん、と弾けて消えた。これならいけるかな、と未来でも思う。
そして。しばらくは何が出てくるか分からないランダムリリースよりもこういう直接攻撃主体にしてしばらく様子を見よう、ということになったのである。そのため未来もこれまでシノノメをただの短剣として使ってきている。
