そんな中『隠者の森』に再びやってきた。
入り口は前と変わっていない。いや、森は基本的にそんなに変わらないだろう…くらいのことは未来にも分かる。相変わらずうっそうとした木々が生い茂り、頭の上から覆いかぶさってくる。ちょっと違うかな、と思うのは葉っぱの茂り具合だろうか。前に来た時より多くて葉の色が濃くなっている…ような気はするのだが、どうも確かではない。
…ここにも四季とかあるのかな。
「あっち」ではマンションわきの小さな公園のすぐそばに大きな街路樹があって、冬には葉を散らすけれど夏には深い緑の葉をつけてくれる（とても大きな葉っぱでまるでうちわみたいだった。本当にうちわみたいにして遊んでいた…ような？）。その変化で季節を知ったりするのようになったのは、いつからだっただろう。そんな木のことを、誰かに教えてもらったような気がする。
…誰だったっけ。
近所付き合いのようなものもほとんどない。たまたま来た親戚…だったか誰だったか。よく覚えていない。
「えい」
バタッキである。だんだん未来も手慣れてきている。
「ふう。…ここいらは相変わらずだあな」
「それはいいんだけどさ…」
ディクシィが右足を軸に身体を後ろ方向へ半回転。自分の頭ほどの高さへ左足を後ろ回し蹴り風に蹴り上げる。…あ、ヘビナワが逃げた。するりと森の奥へ消えてしまう。
「ああんもう…いつもはあんまし動かないのに」
「で、何だって？」
ハリエルは…いつものようにくるりとクレナイを片手で回して背中の鞘へ収める。ここいらのモンスターはあらかた倒してしまったらしい。こういうのには「波」があって、大量に襲ってきた、と思ったら正しく波が引くようにぴたりと襲来が納まったりする。もちろんそのうち「波」は打ち寄せてくるのだが。
そんなすき間みたいな時間は息を整えるのにぴったりだ。
ディクシィも手を肩にあてて、軽く首を回したりして…ふう、と息を吐く。
「そろそろ話してくれてもいいでしょ？ 一体どんな依頼なのよ？」
…そう言えば聞いてなかったっけ。
「キを探してくれってさ」
「…キ」
…なんだろ。
「またなんか変な依頼じゃないでしょうね。あんた、時々変なの引き受けてくるから」
「前にあったのは…山で魚を探してくれだったかね？」
ガトが、ひょい、と未来の肩に跳び乗ってくる。ちなみにさっきまでちょうどいい陽だまりが切り株の上にあったので、その中であくびなんぞを連発していたのである。肩に跳び乗ったのは陽が動いて陽だまりが消えたからに他ならない。
「山で魚…？」
「ああ、そうさ。ありゃ、鍛冶場の連中にいっぱいくわされたってやつだったかね」
前足片方で口をおさえてシシシと笑う。
「何言ってんだ、今回のはきちんとソケイから回してもらったんだ。…えっとな」
一旦服の隠し…ハリエルは小さな荷物を背負っている。クレナイの鞘の上から背負うようになっているが、この大剣を抜くのに苦労はないらしい。が、とっさの時には荷物を開けにくいのでポケットのような「隠し」を服のあちこちに着けてあって、そこへ必要そうなものをあらかじめ入れてある。その中の一つに…いや、二つ、三つと手を突っ込んでは探していく。
「あれ…ここへ入れたんだが、な…」
なお、投げる用のボロい短剣は右手近くの隠しに何本も入っているからそこは探らない。
「お、あった。あった。ええっと…」
左手よりやや下の隠しからメモのような小さな紙を見つけて…広げる。
未来もディクシィも顔近づけてのぞきこんでみる。
「…ぽ、ぽらりす…ざっか…雑貨店？」
「お。よく読めたねえ」
「ポラリス雑貨店っておっきなみちの奥に入ったとこにある、アレ？」
「大通りから路地を二つ三つやっつけたところだな。結構品揃えはいいんだがな」
「で…ああ、なるほど。木の実が欲しいってわけね」
「…み、み…ミアナ…？ その…実？」
どんな実なのか見当もつかない。
「別に今すぐ実が欲しいってわけじゃねえらしい。季節が合わねえから今はまだねえんだと。ただ、初心者向けでどっちかと言えば行きやすい隠者の森にそのミアナの実がなる木がないか、探してくれないか…ってなそんな話なんだ」
