…な、なー…何を、何をいきなり。
どう答えたらいいのか、ちょっと迷ってしまう。よく分からないあの世界、ナンタイコウのことまで話した方がいいのか、それとも…。
「なんかその七咲ってのが上手いらしいな、そのゲーム」
「…げーむ？」
「ああ」
何だと思ったんだ？ という顔の先守。
「レアなアイテムの狩場とかよく知ってるって話じゃねえか。俺はそうでもないんだが、ま、知り合いにそういうのが好きなのがいてな。ちょっと話聞いたりできねえかなってそんな話なんだ」
なんだ知らないのか仕方ないな、と先守が料理の手を休めて差し出してきたのは携帯できる小型ゲーム機。
「俺はそうでもないんだが…」
とか言いながら手際よく操作してスタート画面を出してくる。
「…キュリオス」
「だろ？ 無線で対戦したり協力したりできるゲームなんだ」
依頼を受けてそれをこなす、いわゆるRPGのようなものらしい。倒したモンスターをアイテム化したり食材化したりもできる。
ある程度までレベルが上がると「依頼」そのものを作ることも可能になる。他のプレイヤーがその「依頼」をこなすことで報酬が入る、特殊なアイテムが手に入る、などの利点があるだと言う。もちろん「依頼」は簡単には作成できない。ゲーム内に「委員会」と呼ばれる組織があって（ゲーム会社の社員がやってんだろうよ、と先守）そこへ提出して受諾されて初めて「依頼」としてゲーム内で発表されることになる。
「発表されると『関心度』ってのが設定されるんだ。つまり、どれだけ好奇心をそそられる依頼か、ってことだな」
「だから…キュリオス？」
「じゃねえかな、ってこった。この『関心度』が高い依頼を作成した方が報酬は大きいし、依頼をこなした側にもメリットあるしな」
…なんだ、結構やりこんでるじゃない。
学校の友達とでもやってるのだろうか。ゲーム機を学校に持ち込むこと自体は禁止されてないし。授業中にやったりしなければ問題はない。
…そう言えば真記も前にそんなこと言ってたような気がする…。
寝不足もそのせいかも知れない…。
「で、どうだ？ 七咲ってのも毎日やってるんじゃないのか？ 休み時間とか？」
「…そうかな…」
未来が見ている限りでは、啓児は休み時間はぼんやりしていることが多い。コンピュータ研の三輪君とかその他の男子が時々机に寄ってくることがあるが…。
「あ、あれだったのかな」
ホントにゲームの話だったのかも…？
「何だよ？」
先守はすでに煮物にとりかかっている。筑前煮。手の込んだ料理ではある。さっきまで炒めていた食材をこれから煮るのである。
「そう言えばクラスの男子と何か話してたかも。武器とか何とか言ってたし」
そろそろ明夫も帰ってくるだろう。着替えてこようかな。
「だろ？ …明日くらいにお前のクラス行ってみてもいいかな？ いるかな？」
「いるんじゃない？ 休むってことは…」
…まずないだろうし。と言うよりあっちに行ってる期間の方が時間としては長いはずだから…本当は休んでる時間の方が長い、ってことになるのかな？
「そっか。んじゃ、あいつと一緒に行ってみるわ」
「そ。…わたしには声かけないでね、いい？」
なんか恥ずかしいのだ。家族が自分のクラスに来るとかそういうのは。だから返事も待たずに自分の部屋にさっさと入ってしまった。
翌日。昼休みに果たして先守はやって来た。
それまでなんとなく落ち着かなかった未来なのだが。一緒に来た「あいつ」を見てさらに落ち着かなくなってしまった。
…まさか女の人だったとは。
付き合っている、という感じではなく友達の一人、といった印象を受ける…と未来は思う。背の高い先守に対して背の低い、よく動きそうな女の人である。学年は先守と同じだから、先守とは同じクラスなのかも知れない。
啓児のところに来て…話し込んでいる。
時々明るい笑い声が響く。よく笑う人なのかな、とは思うのだが…。
「何？ 気になるの？ みき？ お兄さんでしょ？」
真記とかしこは先守と会ったことが何度かある。
「そうだけど…」
「おんなのひとが一緒だね。…そっち？」
「そうじゃないってば」
そんなに長いこといるつもりはないらしい。いくつか質問して、啓児が答えて…いくつか笑い声が上がって、とそんなものだろうか。
教室を出る時に、先守がちら、とこっちを見た気がした。でも未来はそっちを見なかった。
