「あ。来た。こっちこっち」
明夫が大きく手を振っている。先に来ていたようだ。それに小さく手を上げて応える未来。
…なんだか、なあ…。
先守の様子が少し、おかしい。先に着いたのならさっさと中に入ればいいわけなのだが…。
「あっちだって」
「…分かってる」
別々に出てもどうせ行く先は同じなのだ。ファミレスの前で先守がなんだかそわそわしているところへ未来が追いついた、という形なのである。
待ち合わせなのですが…と出迎えてくれたウェイトレスのお姉さんに言ったのも未来だった。その背後へぴたりと隠れるように（身長差がありすぎるからほとんど意味はない）先守が滑り込んできて、こちらは二人です、と。
…何やってんだかなあ…。
やや困惑気味のお姉さんに案内されたのは窓際の席。見回してみるとそれなりに混んではいるが、土曜にしては少ない、というところだろうか。三対三の六人掛けのその席は駅前のちょっとした喧騒を感じることができる。土曜日の夕方。いつもの通学風景とはちょっと、いや、大分違う。
ここの作りは入り口からすぐのところに太くて白い柱が二本、迎えるように立っている。
先守は何を思ったかまず、その柱の一本の後ろへ。未来が構わずお姉さんに続いてずんずん進んでいく（当たり前だが窓際の席だから店の奥の方、ということになる）と…植木、ついたて、と順々に姿を隠しながら後をついてくる。
…ゲームのやりすぎなのかなあ…。
もちろん席には明夫がいて、すでにキタのおばさんと羽佐人が談笑中だったりする。
談笑中、というのはちょっと違うかも知れない。明らかに発している言葉の数が違いすぎるのだから。
「あー、そうそう、そうなのよね。羽佐人さんはお仕事がお仕事だからあまり気にならないかも知れないけどね、やっぱりある程度は小さいうちから親しんでおいた方がいいと思うのよね、学校の授業も始まるって話だしね。でもやりすぎはよくないのよね…そう思わない？」
「はあ」
「何が何でも全部が全部そっちにしちゃえ、ってのはどう考えてもおかし…あら？ あらあらあらあら、まあ…未来ちゃん？ ちょっと見ない間にまあ…やっぱり女の子は華があっていいわねえ…どんどんキレイになっていくじゃない。あ、でも明夫クン？ 男の子だってどんどんカッコよくなっていくんだからね？ 心配しなくてもいいんだからね？」
「そんなんしねーって」
「そお？ 明夫クンは羽佐人さんよりも今日子さんに似てるからカッコいい、というより一緒にいて楽しいって感じになるのかしらね？ あー…先守クン、やっぱりどんどんカッコよくなっていくわね、さ、こっちに座って？ 未来ちゃんも…こっちでいい？」
こっちでもいいも何も通路に近い、手前の方から羽佐人・明夫が座っていてその隣…窓に一番近い席はカバン置き場になっている。向かい側の三人席にキタのおばさんが座っているわけで…この配置で二人が座ろうと思ったらキタのおばさんの隣とその隣しか空いていない。そこで未来がまず座って、後から先守が座ることになる。
「ごんごん頼んでね、おばさん、ばんばんおごっちゃうからね？ 遠慮はナシよ？」
「いや、そこまでは…」
「気にしないでよ、羽佐人さん。今度何かで会った時にごりごりおごってもらうから。出張のついででも何でも連絡ちょうだいね？ できる限りで都合つけてあげるから。…何がいい？ どんどーんといっちゃってよ明夫クン？ ばりばりたくさん食べるでしょ、あんたは。未来ちゃんは甘いものがいい？ それとも…ご飯ものかしら？ 大丈夫大丈夫食べられなかったらあたしが食べてあげるから。…先守クン、さっきから静かね、どうしたの？ めちゃめちゃお腹減りすぎ？」
こんな調子でキタのおばさんの仕切り？が続くのである。
「ご注文はお決まりですか？」
頃合を見計らってウェイトレスが来る。未来と同じくらいだろうか。…バイトかあ、そういうのもいいかなあ…とか思いながら顔を上げた未来。
…あれ…どっかで見たような…誰だっけ…。
疲れを知らないキタのおばさんは止まらない。
「えっとね、このハンバーグセットのライスをね、大盛り…それを一つ。ライス普通のがもう一つね。これってライスのお代わりはできるのかしら？」
「申し訳ございません。お代わりはできないのですが…」
「じゃあ、明夫クン。また別のものを後でばんばん頼もっか？ それと天ぷらそば御膳が二つと…海鮮チャーハン？ いいの？ 未来ちゃん？」
「はい。海鮮チャーハンで」
どっかの誰かさんの真似である（海鮮は未来の好み）。なかなか難しいのだ、こういうのを自分で作るのは。
「じゃあ…海鮮チャーハン一つね。それと…お酒飲む？ 羽佐人さん？」
「僕はいいですよ。みんなと一緒でドリンクバーで」
「あたしも…いいか。じゃあドリンクバー五つと…他に今、頼むものある？ 先守クン？」
なぜかメニューで顔を隠している先守。
「先守クン？」
「え。あー…俺も、特に、ない、です…」
ちらりと見上げたりして。一瞬だけ視線が絡んだ、ように未来には見えた。
ウェイトレスの女の子は何事もなかったかのように、平然、と
「ではご注文、繰り返させて頂きます…」
読み上げていったのだが…声の調子が少し変わったかな、とやはり未来は思ってしまう。具体的にどういう風に、と聞かれると困ってしまうけども。
