テーブルの上はもうほとんど、空。
「あー、おいしかった」
たしかに美味しかった、と未来も思う。ここのところ家族で外食、というのがほとんどなかったせいだろうか。
「あまり来たことなかったけど、なかなかにおいしいもんですねえ」
羽佐人も満足そうにコーヒーをすすっている。
「系列によってちょちょっと違ったりするんだけどね。でも最近のファミレスはハズレが少ないわあ…昔は結構バラつきがあったものだけれど」
「そんなに前から行ってたんだ？」
「そりゃあ、ね。あんたらが生まれる頃からねって…こらこらこらこら」
と、ハンバーグセットとカツ丼を平らげてもまだ余裕の明夫を軽くにらむ。
「その頃にはまだこんなにばんばんファミレスなんてなかったんだからねー？」
「昔はそうでしたねえ、喫茶店の方が多かったかな」
「そーよねえ…レストランも結構結構少なかったかも」
そう言えば。前におばさんから聞いた話を未来は思い出した。
「…まだ星、見てるんですか？」
前に泊まりに来た時にそう言っていたのを思い出したのだ。
「うん。でもここんとこはちょっとばかし忙しくなってきちゃってねー…残念、ほんとに残念なんだけど観測はねー…あら、もう一年くらいしてないのかなあ…ほんとにほんとに残念なんだけどね」
クルマに天体望遠鏡を乗せて高台を目指したりする。もちろん一人ではなく何人かだが…野宿したりすることもあるそうだ。その光景は正に絶景。ただ、どうしても言葉では説明しにくいらしく、ほとんどの人には分かってもらえないんだとか。
当たり前だが天候にも左右される。だからせっかく行くことができても途中から雨が降り出して星どころではなかった、とかそういう話もしていたのだった。
「全然見てないんですか」
「最近はね、ベランダからちょろちょろっと…とか？ あ、でも、ほんとそろそろ観測会行きたいわねえ…」
おばさんは仕事の都合上近くに来ただけなので、これから戻らないといけない、とのこと。
「またね。何かあったらばりばり連絡ちょうだいな。…先守クンも。ね？」
「あ、はい」
「じゃあ、みんなまたねー？ 元気でねー」
と、ファミレスの前で別れたのだった。
土曜日の夕方…から夜になるところ。
まだ終電というわけでもないので、人の流れは比較的ゆったりとあちこちへ流れている。キタのおばさんのようにここから電車に乗って帰宅、あるいはどこかへ繰り出そうか、という人もいればここが終着地点だからここから家へ…という人もいる。平日ならもっと背広の人も多い。しかし目の前を流れてはどこかへ消える人たちの服装には何か決まりがあるとは思えない。そう、てんでんばらばらなのだ。
「さ、帰ろうぜい」
…どこかホっとしたような表情の先守。
「兄ちゃんあんま食べなかったなあ、お腹でも悪いのかよ？」
「ああ？ そんなわけねーだろ？」
「そっかあ？ なんか変だぜ？」
「…いいんだよ、何でも」
「…未来」
腰をかがめてそっと羽佐人が話しかけてくる。
「彼は…何かあったのかな？」
「さあ…わたしも、よく分からない」
「そうか。ちょっと気になったのだが…」
多分あの女の人のことだろうなあ、とは思う。
だけどそれはあくまでも推測。本当のところは分からない。そしてそういうことを誰かに話したりしない方がよさそうな。
…どんな関係なのかも知らないのだし。
知りたいような…知りたくないような。
帰ってきて…一息。
実は海鮮チャーハンの他にショートケーキとアップルパイも頼んでしまっていたのだった。元来はそれほど多く食べない未来なのだが…おばさんに押し切れらてしまった。だから…ちょっと苦しい。
それでも。
本棚からアレを取り出してみる。…キュリオス。
…ほんと、なんなんだろ、コレ…。
何なんだか、やはり分からない。
