なんだか心配だなあ、とか思いつつ結局パンやスープをひょいひょい口に運んでしまう未来。
「お前も食べるようになったじゃねえか」
ハリエルに言われて、ふと。
…こっちに来るとなんだか食べ過ぎちゃうなあ…美味しいからかなあ…でも、こんなに食べてたっけ、わたし。
「おう。もうメシは済んだのかい？ おや、まだちいとばっかし残ってるねえ」
果たして三人が朝食を終える直前にひょっこりガトは帰ってきた。こっちだと体動かすことが多いから、だからついつい食べちゃうんだ…と未来は自分を納得させていたりする。
「遅いよ、まったく」
「すまねえな、ちょいとヤボ用が長引いちまってな。…お、ミライ、今日も食べたな。いいこった」
ひょい、とカウンターに跳び乗る。右前脚で顔を軽くなでつけて、ぶるるっと身震い。気持ち良さそうに伸び。
「ガト…」
「なんだい？」
まだスープが残っているからそれに興味を示したらしい。ディクシィに皿にとってもらったりしている。
「夜に出歩くって、どこに行ってるの？」
少し、沈黙。ハリエルとディクシィが顔を見合わせる。
「内緒だあね。たいしたことじゃねえよ…気にすんない」
ちろりとスープを舐める。
「でも、でも…」
何かあぶないことでもやっていたら…。
「ガト…」
「…気になるってか？」
「うん…」
「どうしてもかい？」
「…うん」
かくん、と首を落として、はああ、とため息。
「…今日はお前ら、なんかあるのかい？」
「ん？ そうだな隠者の森か狐狸の森でも行ってみようか、って話してたっけ」
「そだね。特に宿の作業もないし…ね、ミライ？」
「うん」
「じゃあ、今日は森はナシだ。鍛冶場へ行くとしようか、みんなでな」
…鍛冶場。さっきの…人たち？
「へえ、なんか用事でもあるのかよ、ガト」
「特にねえよ。でもよ、お前ら二人には話してあるだろ、あのこと。そろそろミライにも話しておくべきなんじゃねえかな、ってよ」
…あのこと。
「そっか…そうだね。ミライ、前に言ったことあったよね？ 夜に出歩いちゃいけないって」
「うん」
「それと関係あるんだ。それにさ、鍛冶場って結構面白いところだからさ、行ってみよ？」
「…うん」
…なんだろ、あのことって。
昼前のナンタイコウ。鍛冶場は町外れにある。
大通りに行くのか、と思っていたら少し違うようだ。並行しているような路地へと向かう。町の奥へ奥へと向かっているような…最初に未来がここへ来た時に見た石の門や石の壁とは全くの逆方向になる。大通りはナンタイコウの町を貫いているように見えるが、実際には少しズレいている、とのこと。だから大通りをずんずん奥へと進んでも鍛冶場には着かない。
このそれほど広くない路地が鍛冶場への直通の道。
資材は大通りで運んで（そう言えば大きな荷物を運んでいるのを見たような）人はこっちで向かう。大通りの途中には太い道路が繋がっていて、資材はそっちを回って鍛冶場へ運ばれる。もちろん、それだとやや回り道になってしまうため…人はこっちを使うのである。
町外れとは言え町の中なんだろうから、そんなにかからないだろう…と思っていた。
しかし結構時間が経っているような気がする。…朝に見たあのごつい人たちもこの道を逆に歩いてきたのだろうか、なんだかめんどくさいなあ、とかそんなことも考えてしまう。
「着いたぜ」
気がつくと本当に「町外れ」だ。家とか畑とかそういうものが周りに見当たらない。荒地、というまでもなく草地、とかそんな感じだろうか。いずれにしても人が何かやっている気配はない。
いや、気配はある。…昼前は昼前なのにとんてんかんてん、かんかんかん、といった音が響いている。ここからでも分かるくらい大きな音だ。
