「夜はこんなもんじゃねえんだ、まず眠れねえよ。うるさすぎて」
近づいてみるとただの草地の中に、ぽつん、と建っているわけではないことが分かる。様々な資器材がきちんと並べられてある。整理されたそれらはまるで芸術品のようにも見える。場所が場所だけに雑然、と放置されていてもおかしくはないのだが。
「おう。コマカンサだ。やっぱりよく動いてるねえ」
ひょいひょいっと未来の肩に跳び乗ってくるガト。
「こまかんさ？」
何かの商品の名前か、とか思ってしまう。
「ここの新人でな。なに、口は悪いがいいやつだね。…おうい、コマカンサ！」
よく見ると資器材置き場の一部がゆっくりと動いている…ような気がする。
鉄だろうか、金属の延べ棒のような、それにしてはやや長い棒が積んである一角。荷車が置いてあって、そこへ棒を積み込んでいる小さな姿がある。…ガトの声と歩いてくる皆の姿に気づいたのか、ふと、顔を上げて汗をぬぐう。
「…ガト？」
背の高さはディクシィと変わらないほど。むしろ小さいかも知れない。しかし体つきや身のこなしが明らかに違う、日に焼けた少女。
「なんだい、どうしたんだい、忘れもんか？ …っと、しっかしぞろぞろ来たねえ」
よいせっと棒を荷車に放り込んで、にやりと笑う。
「忘れもんでも何でもねえよ。ガトがちょっと用事があるって言うから来たんだ」
「へえ？ まあ、遊びに来るってんならいつでも相手してやるよ、ハリエル。ディクシィ？ あんたは相変わらず小さいねえ？」
片手で頭をなでなで。まるで子供扱いだが二人の身長差はほとんどないからあまり意味はない。
「…人のこと言えないじゃない。そんなに変わらないくせに」
「いやあたしは毎日育ってるしぃ？ しっかり食べてしっかり動いてるからねえ？」
…大きいなあ…。
目の前で揺れている二つの物体が、である。ハリエルやディクシィの様子からすると未来ともほぼ変わらない年齢と思われる。思われるのだが…なぜにここまで違うのだろう、とかそんなことまで思ってしまう。たしかによく育っていそうである。
「で…こちらは？ 新人さんかい？」
「ミライってんだ。最近仲間になったんだ」
「よ、よろしく…」
…こういうのは苦手だなあ…慣れないし。
とりあえず、ぺこり。何を話したものか、とか思っていたのだが。
がしっと未来の手を掴んでくる。親指の付け根から手のひらの内側から、小指の先まで遠慮なく指先で押したりぐりぐりしたりしてくる。なぜか興味を持ったらしい。
「へえ…ミライ？ ミライっていうんだ。うんうん。いい手してるねえ…なんだい、冒険者になったばかりかい？」
「えっと、まあ、その」
「こりゃあ色々とできそうな手をしてるよ。少なくともディクシィよりゃマシな手だ」
「はいそうですか、どうせあたしは不器用ですよーだ」
「むくれるない、あんただって頑張りゃどうにかなるんだからよ」
あははは、と高笑い。
「おい、コマカンサ」
「何だよハリエル」
「ガトがな…キーツに会いたいんだと」
「場長に？ なんでさ？」
「あのことだよ、あのこと。ミライにゃまだ話してないからな、きちんと伝えとかねえと、ってな」
それを聞くと、少し真面目な顔になって、腕を組んで少し考え込む。
「そっかあ…まだ知らないんだ、あのことは？」
…あのこと。
「…うん」
「よし、ついてきな。場長に会わせてやる。夜勤でこれから寝るって頃合だから、ほんとは起こしたくねえんだけどな…」
ちら、とハリエルを見る。
「…なんだよ」
「仕方ねえ、今度おごれよ。マリカんとこの炒めメシでいいや。二杯…いや三杯かな」
荷車を、ぐい、と引っ張る。十本近い金属の棒が積んであるのだが…楽々と動き出す。こういうのは力よりもタイミングが物を言う。やはり慣れているのだろう。
「なんで俺がおごんなきゃなんねえんだよ！」
「なんとなくだよ、なんとなく。…よーし、こっちだぜ。案内してやる」
