「はひ？ はんだって？」
「ひらひはひひはいっへのは…は、へめ、はひふぉれのはっへにふってんひゃ！」
「はひゃいふぉんはひはふぉんえ、ひふひー、ふぁへふぁいっはっらふぉれも…」
「ちょっと！ あたしのまで食べようとしないでよお！」
マリカの宿屋のいつもの朝食の光景。カウンター席にはハリエル・コマカンサ・ディクシィ・未来の順で座っている。
「全くあんたらは何だってそう人のもんばっかり食べようとすんのよ」
「んぐごっくん。だってさー、なんか美味そうなんだもん、仕方ないじゃん。お、ハリエル、そのフライもっらいー！」
「ごくん。あ、てめ、何勝手に俺の取って置き持って行きやがんだ、ちょ、待てこら！」
…タイミング悪かったかなー…。
苦笑いしか浮かばない未来。聞いておきたいことがあったのだけど。
今日の朝食はいつもより割と豪華だったりする。
明け方まで作業するのが普通の『鍛冶場』のコマカンサだが、夕方から非番だったとかで昨日からマリカの宿屋に泊まりに来ている。たまにこういうことはあるらしい。その代わりこういう時は朝から作業をするため朝食は必然的に豪華になる。
炒めメシの大盛りがどどん、と鎮座している。もちろん二皿（当然追加あり）。それから定番のパン。それもいつものコッペパンだかロールパンだか、という代物ではなく…全斤の食パン丸ごと、といった風情。未来にとっても初めて見るモノで、そっか、これを適当な大きさに切って袋に詰めたらいつものあの食パン一斤になるのか…とちょっと感動してしまったほど。
つまりは細長くて中の白いパンがハリエルとコマカンサの前にででん、と横たわっている…。
それをどう食べるのか。ホマルのスープや多分？コーン？のポタージュ？と思われるスープも一応いつもの壷に入って並んでいる。が、この二人は食パンの山脈を無造作にちぎり取ってから、皿に少しだけ取ったスープへ、ちょこ、っとだけ浸して後はそのまま食ってしまう。いや、貪り喰らう。明夫も良く食べるのだが、さすがにここまでは…。
さらに魚介のフライ盛り合わせ、というかなりヘビーなものまで二人は頼んでいる。皿からあふれんばかりの揚げ物の山。
「…よく食べるよねー…」
そう言うディクシィの前にはちょっと甘めに焼いた菓子パン（中に何か入っているのではなく、生地に乾燥した果物を混ぜてある）のようなものがある。もちろん、さっきそれをも食べられそうになったから…未来の方へ位置をずらして体で隠すように食べている。なお、スープは四人共用だからうかうかしていると無くなってしまう。だからディクシィと未来はいつもより深いスープ皿に多めに取ってある。
「どこに入るんだろうね…」
未来もディクシィと同じもの。最近はこの甘めのパンがお気に入りなのだ。いつものロールパンっぽいのをスープに浸すのもいいのだけど、どうやってもスープより先にパンがなくなってしまってスープだけ飲むことになるのが、なんとなくもったいない？ので普通に食べられるこっちの方がいい、とか思うようになっている。
「ま、割り勘じゃないからいいけどさ」
この分配で四人均等に割ったらディクシィと未来は大損である。だから炒めメシと全斤食パン（もちろんフライ盛り合わせも）はハリエルとコマカンサの別会計。甘いパンはディクシィと未来、スープだけ割り勘、ということになっているのだけど。…実際には壷抱えて丸ごと飲み干すような二人である。その辺だけ、ディクシィ・未来組は損をしていることになる。
「いや、あんたらの方が小食すぎやね。そんなんで大丈夫かいな？」
カウンター向こうからひょい、とマリカ。エプロン姿で手にはフライパンを揺すりながら。
「いいの。あたしたちは朝昼晩とまんべんなく食べる方だから」
たしかにハリエルは『めんどくせえ』とか言って昼は食べないことも多い。ディクシィはその辺きっちりしていて遠出しても弁当を作って持って行ったりする。時折厨房にも入る彼女だからそれなりにできるはずなのだが…。
…あれは…ちょっとなあ…。
見た目は悪くないのだ。見た目は。ただし大抵の場合味付けが混乱していたり、材料を明らかに間違えていたりする。砂糖と塩を間違えるなんてのはいつものこと。この間はなんだか知らない大きなキノコが生で入っていた（丁寧にカットされて付け合せのサラダの緑が目に優しかった）。当人によればこれは焼いたパンを入れたつもりだったらしいが。しかもそこへどっぱりと酢がかかっていて、怪しげな黒い粉…スパイス？…がかかっていた。そんなもんなのである。
「ところでさ、ミライは何か聞きたいことがあったんじゃないの？」
こっちはもうパンを食べ終えている。茶を飲みながら…一息。あっちはもう少しかかりそうな気配。
「そうなんだけどね…うん」
あれ、どうなんだろうなあ…。
本当は昨日コマカンサが来た時に聞こう、聞こう、と思っていたのだった。が…流れ？でずるずると今になってしまった。
「ん？ そう言えばなんか言ってたっけ。何だっけ？ ミライ？」
「おう、そうだ。何かコマカンサに聞きたいことがあるって？」
「…うげ。もう食べたんね…あんたら」
「おうよ！ いやー、食った食った」
ちら、と見るとあの食パンの山脈は跡形もない…。
「何何？ 遠慮なんかしないでさ、ずばばっと聞いてきなよ？ あたしとミライの仲じゃんか」
ディクシィと未来の間に割り込んで、ぎゅっと肩に腕を回してくる。
「えっと、じゃあ…コマキョリューとかコマキューイとか、そういう人たち、知らない？」
ベッドに入る前に必死に覚えてきた名前である。メモをとっても「こっち」には持って来れない。
鼻に手をやって、ぽりぽりと。ちょっと顔が赤いような…恥ずかしいからだろうか？ それとも…？
「…ミライ、なんであたしの親父とばあちゃんの名前、知ってんの？」
