そういう一幕？もあったのだけれど。
結局食料は少し買い込んでおこうか…ということになった。狐狸の森は二番目に遠い森。日帰りは十分に可能だけど何か食べておくのも必要だろう、とそういうことになったのだ。
装備、と言うか未来のリュックサックのお試し？も兼ねることにした。町の中でちょっと買い物してから狐狸の森へ行くことにして…未来がどれくらい背負えるか、そこら辺も見極めておくことにしたのだ。明らかに中身にかなり余裕がある、ということでもある。
一歩宿屋を出てみる。…かなりの混雑になってきている。人が多い。
「あー、こりゃ大分混んでるな」
「何かあったっけ？」
「んにゃ…何も聞いてねえけどこういうこともよくあるわな」
…うわー…どうしよ。
ナンタイコウの町は時折なぜかこうやって混み合うことがあるのは未来も知っていたのだが…こういうのにはあまり慣れない。人ごみはあまり好きではない。が…そうも言っていられない時もある。
「まあ、とにかく行こうや。昼前に町出ねえとあっちで夜になっちまう」
ハリエルは気楽なものである。なお、買出し終えたらすぐに森に出かけるつもりだから彼の背中には大剣クレナイが鎮座している。…でもあまり目立たないのは…そういう装備をしている冒険者が少なからずいるから。時には顔も見えないくらいの重装備（まるで山のよう…）をしている者が平然と歩いていたりする。逆に薄い、どっかの海辺にいそうな露出の高い格好をしている者が普通にいたりもする。女性がほとんどだが…たまにソレ一丁の男性がやはり平然と歩いていたりすることもある。
『水の精霊ミナオリア様から承認…いや、あれはほとんど信仰みたいなもんかな？ ミナオリア様至上主義！ とかそんなノリの人はよくああいう格好するんだわ』
と、前にディクシィが教えてくれた。
『じゃあディクシィも何かそういう格好したりするの？』
…えっと…地のダリオスと火のファリアイ、だっけ、承認受けてるの…？
『あたし？ いやいや、そんなことしないって。ファリアイ様もダリオス様もそういうの好みじゃないはずだし』
何だかその辺は事情があるようなのだが、なぜ一介の精霊使いごときが世の流れを司る精霊の好みまで知っているのかは…謎である。
『そんな風に捉える人もいるってことかな。精霊様への思いは人それぞれなんだから』
ちなみにディクシィと未来はいつもの町娘のような服ではない。動きやすいようにズボンにはきかえている。これはどこかナンタイコウから外へ出かける時にはいつもこうして着替えているのだけど…ハリエルがマントとか羽織ったりするものだから、あまりそれっぽく見えない？のかも知れない。
ディクシィはともかく。未来は多分自分は大きなナイフ…シノノメだけ目立ってるんだろうなあ、とか思っている。こういう格好した子を探すのはそれほど難しくはないのだから。
ハリエルの後にディクシィが続き、そして未来がガトを肩に乗せたまま進む。
人ごみはかきわけるものではなく、流れに乗るものらしい。そういうのはあまり得意ではない未来だけど。なんとかディクシィの後姿を見失わないよう、見失わないようついていく。当たり前だけどみんな真っ直ぐ進んでいるわけではない。右にも曲がるし左にも曲がる。
「あれ？ 間違えたっけか」
「いや、あっちでしょ」
とかそんな風に迷うこともある。未来はポラリスの店にでも行くのかな、と思っていたのだがどうも違うようだ。初めて行く店…なんだろうか。
すると。ガトがふと、頭を上げる。
「おや…珍しいのが町中にいるね」
その前足で前を指す…。
「ベルホだよ。隠者様がこんなとこまで来ちまったら…隠者なんかじゃないねえ、まったく」
白いあごひげを豊かに垂らし、何か考え事でもしているような、そんな表情である一点を見上げている。
「おや。珍しいところで会いましたな」
先にあっちが気づいたようだが…。
「あ、えっと…おはようございます」
神妙な表情のハリエル。ディクシィもやや表情が固い。
「おはよう。…ミライさんでしたな。お元気ですかな？」
「え、えっと、はい、あの、元気でしゅ」
…なんだ『でしゅ』って…わたし、何を言って…。
「それは何よりです。…ところでみなさんは…」
皆の頭の先からつま先まで眺め回す。なんだか恥ずかしいようなくすぐったいような。
「どちらかへお出かけですかな？」
