「おや…これは珍しい」
武器屋に向かって真っ直ぐ走ってくるのは、まずディクシィ。そしてハリエル。そして…。
「兄上？ これはこれは…何事ですかね？」
ドアを開く。中は相変わらず薄暗い。
「おお、リョンカ。久しいね。…今ちょっと立て込んでいてね…」
「なるほど。隠者が町に来ると、そうなりますか」
群集、というほどでもない。数人があちこちを探しているようだ。なんだか犯罪者っぽく思えてきた…。
「とりあえず中へお入りなさい。さあ、皆さんも」
開いているドアから中に入る…。
…？
何か、違う…？
空気が変わった、というのが一番しっくりくるかも知れない。未来はまずそう思った。もちろんリョンカの武器屋には何度も来ている。薄暗く、しかし中に入ると窓があってそこそこ明るい。でも基本的に薄暗くなっている。
そこには大量の武器から漏れ出す油の甘い匂いや刃物がたたえる静かな光がある。そしてあちこちから聞こえる客同士のささやき声。あまり大きな声を出すような場ではない。
が…。
一番最後に未来が中に入ったその瞬間、周囲は色を無くしていた。それが分かるほど明るくなっている。
「え…」
そこは確かにリョンカの武器屋の中。武器もあれば客もいる。でも全てが灰色の濃淡のみで表されている。そして匂いも音も、ない。
未来の手を引いてきたベルホも封じ込められたように灰色になり、そして…動きが止まっている。いや、ベルホだけではない。前にいるハリエルもディクシィも。もちろんリョンカも。走り込んできた最中だからハリエルとディクシィは宙に浮いたような格好になっている。リョンカはゆったりと歩いているような様子。
…なんか、あの時のあれに似てる…。
ディクシィの魔法装具・ハナマツリのスピードレイズをランダムリリースで放出した時。周り全てが遅くなって、そう、こんな感じに色を失ってしまった。あの時はディクシィが地走りで助けてくれたのだが…。
『ふむ。ようやく発動したな』
声は未来の前からした。そしてその小さな姿が現れる。…二本足で歩く、ガト。ここのところあまり見ていなかったような気もする。
『三人の案内人と対象人物が揃った時に発動する。…なかなか趣きがあるのう』
と、と、と…とガトが歩く。
『ほりゃ、起きんかい。もう発動してるだで』
つん、とリョンカのつま先を前脚の先でつつく。
「……？」
『あんたもな、起きないと意味ないんじゃない？』
ベルホのつま先も同じようにつつく。
「…あ…あ…」
未来の手を離して、顔を覆うベルホ。
『君、さっさと目を覚ましたまえ。時はあまりないのだろう？』
「そうだ…時間は…あまりない…」
「我々は…伝えねばならない…」
『ということだ、なかなかに面白き趣向ということじゃろう？ ん？』
「…えっと」
それまで泥の中にでもいるように動かしにくかった体が、今はすっきりと動く。
「わたし…」
何が…何？
『まず貴様は対象人物だ、ということを知れ。そうでないと話が進まん』
「たいしょう…じんぶつ？」
ガトがまるでガトではない。いつものしゃべり方とは全然違うし（しかも一定でもない）何より二本足で立って、しかも背筋を伸ばしてなんだか…えらそう。
『対象人物は対象人物なが。こいつがおらんとなんちゃ始まらん。…そのためには三人の案内役が必要なの。そういうことなの』
