「…ガト？」
『今の私はガトであってガトではない。ていうか中身だけ違うっていうかー何ていうかー？』
「えっと…」
『あなたは対象人物なの。そこは理解して頂戴？』
「その…」
『そうでないと話が進まぬのだよ、若いの』
ガトはガトとして猫（ただし二本足で立っている）なのだし、表情？にも変わりはない。ただ…声が若干変わって話し方がころころ変わる。男だか女だかも分からないし、これでは年も分からない。
『Hey,Yo! そこんとこはっきりしてくんねえと、YO!』
「あの、その、どれか一つにしてもらえませんか…？」
正直なとこである。言ってることもよく分からないのだけど…。
軽く顔を前足で撫でて。軽く咳払いしたりする。
『あーあー、うむ。じゃあ、こんなところでいいか？ いいな？ これにしとくぞ』
…なんだか軽いような気もするけど…。いつものガトと同じしゃべり方されても、なんだかちょっとイヤだし、これでもいいか…。
『要はあんたが自分のことを対象人物だと分かってくれないと、ちょっと困ったことになるんだ…』
「あの、その前に…あなたどなたですか？」
『…おう、あんたがたは分かってるんだろ？ 聞かせてやれよ』
ゆらり、とリョンカが顔を上げる。こちらもいつものリョンカではない。
「これは…キュリオス様…」
『そういうこった』
…何が？
『そういうもんだと思ってくれ。…ああ、もう大分時間がムダになっちまった』
なぜかありもしない左腕の腕時計を気にするしぐさ。
『とにかくだ。福田未来。あんたは対象人物なんだ。そしてこの二人は案内人。ああ、そうだった。こいつも案内人な』
びし、と親指を自分に向ける。いや、猫の前足にそこまで独立して動く親指はないから…掌を斜めにして、自分に向けている。
『案内人三人とあんたが一緒になるとこの私がこいつの中に入るようになってるんだ』
「……」
『まだ分からねえか。…ち、しゃーねえな。今回は特別ってことにしておいてやる。延期しよう。次の時にはちゃんと認識しておくんだぞ？』
と、言われても…。
『対象人物ってことは誰かがあんたを指名したってことだ。この世界はあんたのために作られたってことなんだよ』
…は？
『血の巡りの悪いやつだな。いいか？ 大サービスだ。この世界はとある人間があんたのために作ったんだ。そしてそのための案内人は三人。そして同行者が一人。…あー、いや待て。ちょっと違うな…』
今度は目の前で本か何かをめくるようなしぐさ。
『正確にはあんたら、だな。あんたは対象人物の一人ってことだ。でも対象人物には違いない。そこを認識してくれ。分かったな？』
「って言われても…」
『やっぱダメか。延期した方がいい。たまーにあるんだよな、こういうの。ったくきちんと説明しておいてくれないと私の仕事がまーた増えるんだよなあ…あー、めんどい』
「あの、ちょっと…」
周囲の色が戻り始めている。スピードレイズが解け始めた時のように。そしてリョンカとベルホが、がくっと床に座り込む。
『いいか？ 案内人三人に同行者一人、そして世界だ。それがあんたに用意された全部だ。…次までに認識しておいてくれよ？』
そしてガトも何かが抜け落ちるように…床にうずくまってしまった。
………
「おや…なんだい？ どうしたい？ みんな…どうしたってんだい？ こりゃお天道様の仕業かねえ？」
ガトがゆっくりと起き上がる。リョンカとベルホも頭を振っている。
「わたくしとしたことが…兄上？」
「ううむ…何か…頭がかすむ…」
ハリエルとディクシィも何が何だか分からない、という顔になっている。
…みんな…覚えてない…？
