「え？ なんかあったっけ？」
ひょい、と枯れた木をまたぐディクシィ。
…やっぱり覚えてない…？
「ああ？ なんかあっただろうがよ、なんか。あー、頭いってー…」
「へ？ リョンカの武器屋…で？」
「そうです。ううむ、わたくしも、ちょっと頭が痛い、ような」
軽く頭を振るベルホ。ハリエルも何度か軽く頭を振ったりしている。
「ミライは覚えてるの？ 武器屋で何かあったんでしょ？」
…そりゃ、覚えてるけど…。
ここで話していいものかどうか、分からない。そもそも意味が分からない。
「わたしも、ちょっと」
覆いかぶさってくる木の枝をそっと横へよける。
「そっかあ…あたしはなんにも覚えてないからさ、ちょっと残念かなあって」
「俺だって細かくは覚えてねえよ。ただ…なんだ、ぼやあっとしてんだが…誰か別の奴がいたような気がしてだな…」
「左様ですな。わたくしも詳細は覚えておりませぬが、誰か…どなたかが、あそこに…うむむ？」
「ガトは？」
「おいらもなあ…何かあったと思うんだがねえ…何だろうねえ、さっぱり分かんねえな」
すでに狐狸の森に入っている四人と…一匹。
リョンカの武器屋を出るのが少し遅れてしまい（リョンカもしきりに頭が、ちょっと…と繰り返していた）買い出しそのものも遅れてしまった。ナンタイコウを出たのは昼をかなり過ぎてからだったりする。そのため今日はやめといた方がいいかな、とディクシィが言ったりしてたのだが。
『ちょろっとだけでも行ってみようぜ、ここまで準備したんだし』
というハリエルの言葉で目指すことになったのである。
夕方にはまだ早い頃に狐狸の森に到着。まだ明るいけれど、本来ならすでに森の中に入っている頃合。
狐狸の森は初心者向けではない。だから元々奥にまで潜るつもりはない。周りだけをそれこそちょろっと行ってみようか、ということなのだが…。
「何もいないね」
「そうだなあ…」
バタッキどころかワンバすらもいない。森だから完璧に静まり返っているわけではない。葉が風に揺れても枯れ葉が舞っても音は出る。枝がすれあう小さな音も重なれば聞き取ることができるようになる。それに普通に鳥や小動物もいる大きな森だから、必ず何かしらの音はするもの。
だけど、モンスターはいない。
「もうちょっと、潜ってみる？」
「そうだな、もうちょっとだけ潜ってみるか…どうです？ ベルホさん？」
「わたくしは構いませんよ。君たちで決めたらいい」
穏やかな微笑をたたえたまま。
「じゃあ、もうちょっと奥へ行ってみるか…」
ガトは未来の肩の上で腹ばいになってくつろいでいる。
「…うーん…」
「あのこと？」
「ああ。何だろうねえ、この…喉の奥に小骨が刺さったまんま、みてえな、このもどかしさってやつはねえ…ミライは覚えてるのかい？」
「ちょっとだけ」
「ちょっとだけ、かい…」
…話した方がいいのかな…。
でも自分にも何が何だかよく分かってないのだ。対象人物？ 一体何のこと？ 案内人に…同行者？
…案内人が三人に同行者が一人。
そう言っていた。ガト・リョンカ・ベルホが案内人だ、と。じゃあ同行者って…。
「おい、ミライ。ちょっと休むか？ 大丈夫か？」
「うん。だいじょぶ」
「それならいいんだけどな、無理はすんなよ？」
…同行者？
「ちょっとは無理しないと前に進めないもんだけどね、物事ってのは」
…同行者。
「そういう意味じゃねえよ。…こっから先にちょっとした広場があっからそこまで行ってみようぜ」
…ハリエルとディクシィが…同行者？ そういうことなのかな？
