ハリエルのクロヒメは何か、膜のようなものに当たって…ぼよん、と弾かれる。
「…んなっ！」
元々斬ることなどほとんどできない武器なのだが、それでも攻撃は通らない。
「どいて！」
両拳を揃えた状態でディクシィが突っ込む。魔法装具は武器としては役に立たない物が多い。が、グローブや弓などのような種類の武器なら扱う者によっては役に立つ、はず…なのだけど。
右拳をアッパー気味に突き上げる。狙ったのは端の方にいた男。ツルハシのような工具を持っているが、それと分かるのは未来だけ。攻撃を仕掛けているディクシィからすれば未知の道具なのかそれとも似たような道具だってないわけじゃないから、何かそれっぽく見えているのかも知れない…。
「…あれっ？」
拳は空を切る。音からすると本気で打っている。だけど…やはり当たらない。
膜の向こうで少し見づらいが、男たちは手に手に工具や道具を持ってドアを壊そうとしているのは分かる。
大きな音は聞こえてくる。どんどん、がんがん、と。しかし…。
『カントク、やっぱこれダメだ。通らねえよ』
『じゃあ…重機を使いましょう。…あまりやりたくないですけど、仕方ない』
『おお、ついに出ますか。…おい、ユンボ持ってこいや。手が疲れっちまった』
…重機？
工事現場というのを未来はしみじみと眺めたことはない。道路工事の人たち、というのはどこかとっつきにくいイメージがあるし。親戚や知り合いにもそういった人たちはいないし。
でもそんな未来でも『じゅうき』という言葉に聞き覚えはある。
…たしか…おっきな機械だったような…。
「見ろ！ あいつらなんか呼び出しやがったぞ！」
「何…あれ、あんなの…」
「ううむ…これは…ううむ…」
「首が…長い！」
「あんなところに歯がありやがる…おい、ガト、どうするよ！」
「どうったっておいらにどうしろってんだよ、あんなばけもんをよお」
「これは…ううむ…」
「隠者！ うんうん言ってねえで何とかしやがれ！」
「何ができると言うのだ？ 一体？」
「うげ。歯を振り上げてる。どうしよ？ ねえ？ どうしよ？」
パワーショベルという道路工事などにも使われる機械がある。
いくつかの種類があって、形も様々だけど。大抵は長い首のようなアームの先に大きくて深いスコップのようなものが付いている。ここで大量の土砂をすくい取ったりする。ワイヤーを引っかけて重い物を持ち上げたりすることもある。
それが…目の前で動いている。
周囲はナンタイコウの街並み。日本の街並みではない。どこかの遊園地とかそういう場所ならこういう街並みもあるだろうし、ヨーロッパの古い都市ならこういう街並みもあるだろうけど、少なくとも未来は身近の日常で見たことはない。
そんな中に毎年度末見たことあるパワーショベルが鎌首をもたげている、この光景。
「うわ、攻撃始まっちゃったよ！」
「くっそ…どうにもできねえのかよ…」
そして、ふと、ハリエルの視線が未来に止まる。
「そうだ！ ミライ！ なんか出してくれ！ 俺のダークフレイムでも何でもいい、何か効くかも知れねえ！」
…って言われても…。
彼らの正体？はなんとなく分かっている。魔物とかモンスターではない。人間なのだろう…。
でもそのままにしておくわけにもいかない。
「…分かった」
「頼むぜ！」
シノノメを静かに抜いて…真っ直ぐ前に伸ばすように構える。そして…深呼吸。
…ふう。
「…ひーる」
そしてシノノメから漏れ出た白い小さな光は誇らしげ？にくるりと一回転して消えていったのだった。ケガした者などいないのだから。
