…うわー…ハズカシイ…。
まだ顔が赤いんじゃないか、と思いつつ…校門で待つ。
もちろんあの後真記にも散々からかわれ、かしこが心配してくれたりもしたのだった。他のクラスメイトも何事か、とちょっとした騒ぎになったりもしたのだが…放課後ともなるともうそんな空気はない。だから未来も一人でここで待っている。
…来なかったらどうしよう。
ふと、そんなことも思ってしまう。あまり騒がれるのは好きじゃないだろうし…だからここを通らずに帰ってしまったのでは…とか。学校からバス停へ行ける道は一本だけ。でも校門からではなくても、裏門から校舎を出て校庭をぐるっと回ってもその道に辿り着くことはできる。そうなると校門で待っている未来と会うことはない。
…そうなったら…。
明日、どんな顔したらいいんだろう…。
しかし意外？とあっさり啓児は姿を現した。いつもと変わらない様子で下駄箱から靴を取り出して履き替える。
そして、小さく頭を下げる。同じように返す未来。
無言のまま、肩を並べて歩き出す二人。が、どうにも話が、言葉が出てこない。そんなこんなのうちにバス停に着いてしまった…。
…どうしよ…。
少し早かったのか、バスはまだ来ていない。
他の生徒もいない。時々こういうことはある。帰宅部の帰宅時間なんてあてになるものではない。授業が終わって放課後になって、それから数本のバスは来る。そのうちの一本に乗れればいいわけだから、場合によってはこういうこともよくある。逆になぜか結構混んでしまうこともある。
時刻表をじっと見ている啓児。そしてゆっくりと振り返る。
「座らない？」
「え？」
粗末な木製のベンチがある。風雨にさらされてがさついた手触り。もちろん未来も座ったことはあるのだけど…。
「一本くらい遅らせてもいいよね？ 福田さんのことだから…『あっち』のことだと思うのだけれど」
うん、とうなずく未来。そしてベンチにそっと腰を下ろす。啓児は未来の前に立ったまま。
「えっと…何から話したらいいのかな」
「話しやすいところからでいいよ。…そうだ、本の題名は読めるようになった？」
「…読めるけど…どんな意味か分からない…」
一つ、うなずいて見せる啓児。
「前段階だね。もしかしたらだけど、『あっち』で何か妙なことを聞かれなかった？」
「妙？」
「なんだか世界と合わないような単語とか…？」
「…七咲君もそういうの、あったの？」
「うん」
軽く天を仰ぐ。夕焼けになる少し前、と言ったところだろうか。青色だった空は灰色と青、それに橙色が混じり始めている。
「僕の場合は…『休暇』だったんだけどね」
「きゅうか…って、お休みってこと？」
「僕の上司のことは話したっけ？ 彼女が『休暇』をくれたんだ。本来はそんなものはないんだ。バン・ハンドルには」
話だけは聞いている。最初の頃はあまり好きではなかったらしい。しかし時間が経つに連れてそうでもなくなってきた、と言っていた。むしろ最近は感謝しているらしい。
「でも直接会ったことはない…んだっけ」
「そう。僕らは搭乗機から降りることはない。降りる時は存在がなくなる時だからね」
この時点で啓児はここにいるが、『あっち』では死んでいるようなもの。彼らは自分の命をベットすることで搭乗する機械を動かし攻撃もする。その命が尽きるとしばらくは行動不能になる。そのタイミングで啓児は『こっち』に来る。
「上司…ガーフから休暇の話があった時はよく分からなくて混乱したもんさ。…福田さんの場合はどうだったの？ 何て言われたの？」
「…た、対象人物。わたしが」
「対象人物…」
「それと、案内人がどう、とか同行者がどう、とか」
「いつも一緒に行動している人がいるんだよね？ たしかハリエル君とディクシィさん…そして猫のガト氏だっけ」
「うん。でも同行者は一人で…案内人、ってのはガトと隠者のベルホさんと武器屋のリョンカさんの三人だって」
それを聞くと、唇に手を当てて…ちょっと考え込む啓児。
「なんだか複雑だね」
「それとね、えっと…」
…言ってもいいのかな…。
「あの世界はわたし、わたしたちのために作られた、って」
