それを聞くと、啓児は大きく目を見開く。
「たいしょーじんぶつってのが、わたしだけじゃないって」
「それは、誰が伝えてくれたの？」
「ガト」
いや…
「違う。ガトだけどガトじゃない」
きゅ、きゅ、きゅー…。
「そう。きゅりおす様って、言ってた」
すると啓児は軽く頭を抱え込んでしまう。
「…うーん…」
「どうしたの？」
「そこでキュリオスの名前が出てくるとは思わなかった…」
何度も何度も首を振る。
「正直なとこ、なんでそこでその名前が出てくるのか、よく分からない…」
ふ、と顔を上げた啓児はとんでもないことを言い出す。
「猫のガト氏が実はキュリオスなのかも知れない」
「…ガトが？」
…そう言えば…『ガト』って本名じゃないって言ってたっけ。
「一つの考えとして、だよ。キュリオスの正体なんて誰にも分からないんだ。一時だけその体を乗っ取っていたのかも知れない。どこかに本体がいて、操るようにしゃべらせることができるのかも知れない」
「じゃあ、ガトはガトってこと？」
「多分。いや、それすらも分からないね」
「そもそも…」
「そもそも？」
「キュリオスって…何なんだろ…」
「僕がガーフから聞いたのは『いくつもの世界を繋ぐ回廊のあるじ』だったんだけど」
「うん」
「他では『好奇神』と呼んでいるのも聞いたことがある」
「こうきしん…そのまま？」
一つ、うなずいて見せる。
「『心』が『神』になっている以外はね。名前からするとそういう呼び方が一番合うのかな？」
バスがゆっくりとこっちへ向かってくるのが見える。一本乗り過ごすつもりだから二人ともベンチから腰を上げない。ふおん、と軽く響く声と共に少し減速したバスだったけど…まず降りてくる人はいないから…そのまま止まらずに行ってしまった。こういう風にベンチで話し込んでしまってバスを遅らせる帰宅部もよくいるのだろう。それほど珍しい光景ではないようではある。
「ところで…」
「うん？」
「案内人はガト氏と他に二人で計三人、なんだよね？」
「うん」
「でも同行者は一人」
「うん」
「同行者、ということは君と一緒に行く者、ということになるね？」
「うん…」
「可能性があるのはハリエル君かディクシィさん、どっちかってことか…」
「…うん」
…何が、言いたいのかな。
「もし今後誰かが新たに君のパーティに加わらない、としたら。どっちかが他の世界からインベイドして来た、ということかも知れない」
