「い、いんべー、いんべ…？」
「インベイド。インベイジョンでもいいかな。侵攻とか侵略とかそういう意味なんだけど…世界ってその世界それだけで成り立っているものじゃないんだ。外から、違う別の世界から色々な因子が入ってきて色々と変わっていくものなんだ」
「……」
…なんかそんな名前のゲームが昔あったって…誰かが言ってたっけ。誰だったかな…。
「それに対してインバイト、という言葉もあるんだ」
「いん…ばいと？」
「インビテイション。こっちは招待された、とかそういう意味で、世界が入ってくることを許可した、ということになる。勝手に入り込んでくるインベイドとはちょっと違う存在になるのかも知れない」
僕はそうだから、と啓児は続けた。僕は、バン・ハンドルからこの世界へインバイトされて来ているのだ、と。
「わたしは…？」
「広い意味ではそうなるんだけど、君の場合は少し違う。ナンタイコウは君のために用意された世界なんだって、言われたんだよね？」
「うん」
「対象人物ってのはそういうことなんだ。その世界の存続にも関わるような…いないと意味がないほどの人物、ということになる。その世界を造った人は君を中心に据えて世界を造ったんだ」
「ちょ、ちょっと待って」
…世界を…造る？
「どういうこと？ 世界って、造れるの？」
思わず身を乗り出してしまう。…世界を…造る…？
すると啓児は平然と言うのだった。
「もちろん。それを可能にしているのがキュリオスなんだ」
なんだか途方もなく大きな話に思えてくる。ちょっと掴みづらいと言うか何と言うか。
「そんなに簡単に世界って造れるの？」
「簡単じゃないよ。簡単じゃないけど造ることはできる」
「じゃ、じゃあ…世界って全部誰かが造ったの？」
「それは…」
少し、うつむく。
「分からない。だけど世界の中には誰かが造ったものがある。ナンタイコウはそういった世界の一つだ、ということに間違いはないと思う。君、という対象人物がいる、ということを証拠にね」
「キュリオスは無数の世界を結ぶ回廊のあるじ。それにはそういう意味もあると思う。色んな世界を行き来できて、さらに新しい世界を造ることもできる。やはり『神』なんだと思うんだ」
あの時の様子を思い出してみる。ガトの様子が変わったあの時。
「なんだか…とりとめもなかった。色々変わるし」
「変わるって？」
「うん。しゃべり方も決まってなかったし。…男の人なのか女の人なのか、とかそういうのも分からなかった。変な人だった」
「『人』じゃないね」
「そうだね」
ふふ、と笑う。
次のバスが来るのが見える。最終バス、というわけでもないのだけど走って来る生徒もいる。
でも日はやや傾いている。これから電車に乗って、それから…と考えると。未来なら何とか日のあるうちに家に帰り着けるだろう。でも部活のある生徒はまだまだ学校にいるのだし、なんだかんだで学校に残っている連中もいる。未来より長く電車に乗らないといけない生徒もいるから…そういった連中は暗くなってからの帰宅、とそういうことになるのだろう。
「さ、乗ろうか」
「うん…」
ひょい、とステップに足をかけて。
「そう言えば…」
「うん？」
「なんでそんなことまで知ってるの？」
「ああ、ガーフもそうだけど、タンブルも色々と教えてくれた。彼も全部を知っているわけじゃないけどね」
タンブル。操縦者総合支援システムの端末。啓児…あっちではオーパスを手助けするシステム。その支援内容にはこういった知識的な支援も含まれる。
