「おう。早かったな」
「そうでもないさ。…よっと」
いつも未来たちが使っている部屋。他の部屋と比べて特に広いというわけでもない。ハリエルは今でも簡易寝台のままだから実際にはちょっと狭い。それでもなぜかみんな集まってしまっている。その簡易寝台へ、どすん、と遠慮もなく体重かけて乗っかるカノン。脚がやや不安げな音を立てる。
「ヤッシは？」
「まだだよ。…呼んでくるか？」
床にどっかりと座っているのはニコ。小柄な体がさらに小さく見える。
「いいよ。後で伝えようぜ」
軽くため息をついたのは、ハリエル。
「どうせどっかでなんか売りつけてんだろ？ 無理に連れて来たって話になんねえさ」
「さて…これでみんな集まったか…」
ハリエルは部屋の窓のそばに立つ。簡易寝台にカノンが座り、となりにディクシィが、ちょこん、と座っている。そのディクシィのベッドにあぐらをかいて座っているのはリンチャ。そばにはサーナが静かな表情で立っている。未来がいつも使っているベッドに優雅に腰を下ろしているのはライカ。未来に隣に座るよう、何度も何度も促したため…未来が自分のベッドなのにまるで借り物のように座ることになった。
この部屋には他に小さな丸いテーブルもあって、背もたれのついたやはり小さな椅子も二脚ある。しかしなぜかそれらは片隅に片づけてある。その方がたしかに部屋を広く使えそうではあるのだけれど。
「お前が仕切るのかい？」
一人、床に座っているニコ。愛用の魔法短剣「コジロウ」をひねくり回している。ハリエルと同じように二振りの剣を使う「魔法剣士」だが、彼の場合は短剣を使う。腰に差しているのは「コジロウ」と「ジュウモンジ」の二振り。両方とも短剣と呼ぶにはちょっと短いかも知れない。ナイフよりはさすがに長いけれども、短剣にしてはちょっと、といった具合。コジロウは水系主体、ジュウモンジは炎系主体だが…ややクセのある武器だとか。
短髪の少年っぽい男性が床に座り込んで短剣をいじり回す。こうやって見ると結構物騒な印象。でもニコの表情は無邪気そのものなのであんまりそうは見えない。なんだか子供が遊んでいるような、そんな感じである。
「お前がやるかい？」
「やだよ。めんどい」
ひらひらと手を振って見せる。
「ま、話ったって大したもんじゃないしね」
カノンも自分の弓…魔法弓「ウスズミ」を手元に手繰りよせようとして…人の身長くらいはある弓…いつの間にか立ち上がっていたライカに止められる。ライカはウスズミをまるでそこらの棒っきれでも扱うように、ひょい、と自分が座っているベッドに放り投げてしまう。そしてその前に澄ました顔で腰を下ろす。
「…ちぇ」
露骨にふくれて見せるカノン。それに対してかすかな笑みでもって応えるライカ。
こんなライカだが、所持している魔法装具は魔法吹き矢「リオノユメ」と言って懐に隠し持てるほどの小さなもの。なかなか見ない「吹き矢」という武器。しかもこれは攻撃用ではなく当てると相手の体力が回復する「ヒール」の効能を持っている。さらに、魔法力の補充がほとんど必要ないのだとか。最初の頃に一回だけした、とかそんなもんらしい（通常なら二、三回出かけて何回か使うと一回程度の補充は必要）。魔法装具の魔法力は使ってない間に少しずつ回復していくものだけど…それにしては回復する量が多すぎる。だから、このヒールは魔法力消費量の少ないヒールなんじゃないか…ということになっている。未来のシノノメの大食い？ヒールとは大違いである。
当人は水風土の三精霊の承認を受けていて、精霊使いとしてはトップクラスなので、こっちがメイン。そのためある意味ネタ扱いの武器でもある。後ろからいきなり「回復」してカノン辺りをびっくりさせていたりする。
「そう。お話というのはそれほど難しいものではありませんの…」
ゆっくりと口を開くハリエル。
「俺らは全部で9人と…あとガトが一匹いる。結構な戦力だと思うんだが…ガトはともかく」
「そうだな」
手にしていたコジロウを静かに腰に収めるニコ。
「しかも能力としちゃあ申し分ないのばっかりだな。…ガトはともかく」
「だねだね？ これなら色々できそうだね？ …ガトはともかく」
リンチャがベッドの上に立ち上がって、小さく跳ねる。そのまま空中で足を畳みながら、ぽすん、と座る。
「うん。いいよね。…ガトはともかく」
ディクシィもにこり、と笑う。
「おめえらよお…」
そんなガトの抗議？は耳に入っているのかそうでもないのか。ハリエルは何度かうなずくと（わざと？）重々しくこう言ったのだった。
「担当地域は決まってる。これを三つに分けて三人ずつの組がそれぞれ担当する、か…分けずにみんなで回るか、だが…？」
