「なるほどね」
「俺らの役割は『警備』だ。何かあったら他の連中をありったけ呼ぶんだ。俺らだけじゃなくて大勢で当たった方が有利だろうしな」
少し、考える。
「…あんなのが相手だ。どんだけ多くても少ない、ということはないだろうよ」
例えば区域を三つに分けるなら、何かあったら他の二地域の連中を必ず呼んでからさらに他を呼ぶ。区域を分けずに皆で回るのなら他の区域の連中を必ず誰かが呼びに行く、ということである。もちろんそにのためには他の区域の連中との連絡も重要になるが…それはそれほど難しい話ではない。マリカの宿屋内はもちろん、他の冒険者との交流はゼロというわけではないのだから。
「どの辺まで見ないといけないんだ？」
「えっとな…」
懐の隠し（いつも投げる用ナイフとか入れている）から、一枚の紙を取り出す。
「…この宿屋の北方面、ということになってる。北、だから…」
ハリエルは窓際に立っている。そしてこの窓はさっきまで未来たちがいた海の方とは逆を向いている。つまり、こっちは南ということになる。
「あっちだな」
壁の方を指す。海のある方向ということ。
「南はファーとかコットが担当するらしいから、まあ、安心だな」
未来には聞き覚えのない名前だが、カノンやニコがどことなくホッとした表情になったので、多分強い？人たちなんだろう、とか思う。狭い宿屋だから会ったことくらいはあると思うのだけど。
「で、どうするんだ？ 三つに分けるかい？ それともみんなで行くかい？」
「そうだなあ…」
すうっと流れるように手を上げるライカ。裾をそっと押さえる仕草がどこか優雅である。
「とりあえず区域を三つに分けてみる、というのはいかが？ 一晩で終わり、というわけではないのでしょう？ 色々試してみては？」
たしかにこんなことは初めてなのだ。どの方法がベストか、なんて誰にも分からない。
「そうだな…」
「それでいいんじゃね？ それでヤバかったらまた違う手を考えたらいいさ」
能天気にも聞こえるニコの発言。
「うん、そうするか…どうだ？ みんな？」
それぞれに「うーい」とか「ああ」との返事。未来は…一つ、うなずいて見せた。ハリエルがちら、とこっちを見たからである。
「じゃあ…組み合わせだが…」
万が一、ということで体力を回復できる「ヒール」を使える者をそれぞれに分けて…となった。実は「ヒール」を使えるのはここに三人いる。
「わたし？」
たしかにシノノメはヒールが使えるのだが…。
「あれは、ちょっとなあ…」
「うーん…ちょっち難しい？」
効果が安定していないのである。そうなるとライカの魔法吹き矢「リオノユメ」ともう一人。
「…私の…魔法剣『ルリミヒメ』…」
いつもはリンチャと組んでいるサーナである。彼女は魔法杖「キメンコウ」と魔法剣「ルリミヒメ」を持っている。「キメンコウ」は広範囲に渡って相手のスピードや反応性を落とす「スピードダウン・ウェーブ」が使える。そして「ルリミヒメ」は「ヒール」が使える。それとは別に細身の剣を持っていてこれで主に戦闘を行う。
「そうするとライカとサーナと…やっぱりミライに頑張ってもらうか」
結果として。
第一班がハリエル・ライカ・リンチャ。
第二班がニコ・サーナ・ディクシィ。
第三班がカノン・ヤッシ・未来＋ガト、ということになった。
一応…リンチャとディクシィは体術が使えるので最前線。カノンの魔法弓「ウスズミ」は支援系の「アッシュソイル」が使えるが、弓による後方からの攻撃も期待できる。ヤッシは多数の魔法装具（自作がほとんど）を持っているが、元々は片手剣使いだから前線も任せられる。
ライカは精霊魔法主体で、ニコとサーナは支援と前線が半々。ハリエルはどっちかと言えば後方からの攻撃が主になるがリンチャが前線に出るから問題ない。
そして未来だが…。
「これ、全部わたしが持ってくの…？」
シノノメは最後の手段、ということでとりあえず使用しない。代わりに回復できる木の実を山ほど背負っていくことになった。こないだ買ったカバンが役に立つ、というものだが…目の前にこんもりと盛られた様々な木の実を見ていると、ちょっと、いや、かなり不安になってくる。
「よし。じゃあ…今夜から始めようぜ。みんな今のうちから寝ておけよ」
…今夜から？？？
