…キュリオス。
あの時の…名前。
「あの、その」
『なんだい？』
「キュリオスって…何なんですか？ 誰かの…名前なんですか？」
すると。すらっと立ったままのキジネコは何回かまばたきをして見せる。
『そこから話さないといけないんだねえ』
「はあ。…一度、なんか、会ったっぽいんですが」
視線を戻してまた米を研ぎ始める。
『ほう』
ぐい、と身を乗り出して…食いついてくる？
『会った。会ったのかい？ キュリオスに？』
「そう…名乗ってました」
『じゃあ、それが誰かの名前だってことくらい分かりそうなもんだけどねえ？』
「まあ、そうですね」
…イジワルだなあ。
『ま、いいさ。キュリオスというのは…たしかに名前さ。人…じゃないね。神サマ…かねえ、ありゃ』
『好奇神と呼ぶ者もいる』
「…コウキシン」
『鬼神じゃないよ』
「分かってます」
「その、ガーフさんは」
米を研ぐ手を止めて、キジネコを見る。
「会ったことあるんですか？ その、キュリオスさんに？」
するとキジネコは右前足で右耳の後ろからつるり、と顔をなで下ろす。
『まず…ガーフさん、というのをやめようか。私のことはガーフでいい』
そして頬のヒゲを何度かしごくようにお手入れ。
『…それに…キュリオスだ。キュリオスさんでもない』
…違いがあるのかな。
ちょっとした違和感。別にさん付けでも何でもいいような気もするのだけど。
「では、ン、ンン…。ガーフは、キュリオスに会ったことあるんですか？」
軽く手を振って水気を飛ばす。もう米は十分に研げた。後は炊飯器にセットしてタイマーをかける。お米に少し水を含ませたいから。
『ないよ』
…えーーーー…。
『でも会った旅人の話はいくつも聞いてるね。その時々によって姿かたちは違うらしい。だから正確な姿は誰にも分からない』
「わたしの時は…猫でした。黒いの」
『そういう時もあるんだろうね。しかしよほど猫に縁があるんだねえ、あんたは』
『でもキュリオスが出てきた、ということは一つの段階に至ったことを意味するんだね、これが』
「一つの…段階？」
『そう。さっきも言ったように世界と言うのはいくつもいくつも存在している。そして存在する理由も世界それぞれ。それぞれの世界にとって一つの段階…節目と言ってもいいね、そういったことが起きるとキュリオスは出てくるって話でね』
「…なんかのイベントですか」
『ゲームだっけ？ オーパスがこっちでよくやってるって奴だね。そういう言い方もできるね。ある一定の条件に達すると出てくる』
…やっぱりイベントっぽいなあ。
未来自身はあまりやらないが…先守が時々そういうのをやってるのは知っている。
…そう言えばキュリオスってゲームもあるんだっけ。
『でも世界はそれぞれだからね。全部の世界でキュリオスが出てくるってわけじゃない。出てくるのは後天世界がほとんどなんだ』
…こうてん…せかい…？
