「よし、今日も頑張ろうぜ」
「…なんか最近そんなのばっかだな」
「仕方ねえだろ、毎日変わんねーんだから」
「そりゃそうだけどよ」
ハリエルとニコの掛け合い？も毎度のことになってきている…夕方。やはり毎度毎度出かけることになっているのである。
「夕メシ食ってこーぜ」
「あーそーだな」
夕食、と言ってもそんなに重たいものでもない。若い冒険者は自由になるお金が少ない、ということもあるのだけれど軽食で済ませることが多い。もう一つ宿屋側の事情もある。夕方以降は酒場も兼ねるのだが、そうなるとあまり大量の材料をこっちに回せなくなることがあるのだ。他の利用客を優先する、ということでもある。酒場はマリカにとっても重要な収入源である。貧乏な冒険者からの一割だけではとてもではないがやっていけない。
「ほい。おまっとさん」
そんなマリカが出してくれるのは…サンドウィッチである。これなら材料費も安く上がる。余り物、と言えば聞こえは良くないが質は悪くないものばかりである。
そうは言っても未来がいつも見ている「白い食パンに具材を挟んだ軽食」ではない。そもそもこっちでは「白い食パン」というモノが存在していない、ということに気付いたのはいつの頃だったか。いや、「白いパン」的なものは存在しているのだがいつも見ているアレ的なものを見たことはない、というところだろうか。「パンと言えば白くて柔らかいものばかり」というのはただの先入観だったんだろう…とか最近は思うようになってきている。そりゃあ…世界を見回せばどこもかしこの柔らかいパンだけ、というわけでないことはいくら未来でも知っている。
テレビで「美味しいパン特集」とかやってることもあるし。天然酵母がどう、とか、水質がどう、とか。
しかしこっちで「さんどうぃっち」と言うとこのごつごつした岩みたいなパン（見た目も硬さも）を豪快に切り分けた（むしろ斬りさばいた）ものにこれでもか、と具材を挟んだものが出てくる。具材もハムにチーズにレタスが…とかそういうものだけではない。
親指の第一関節ほどに分厚く切られて焼いたベーコン（と思われるスモーク風味の肉）にタマネギのような味の葉っぱ、そしてやはり親指の第一関節は優に超えるようなチーズがみっちりと挟まっている。実は最初の頃はこのチーズの生っぽい臭いがなんとなく嫌だったのだが最近はそうでもなくなってきている。慣れてきたんだろうか。
…これが…軽食。
未来が食べようとするなら抱え込むような格好になってしまう。しかもハリエルはこれを三つ以上必ず平らげる。
「今日はなんか少ないな」
…どこが。
「そう言わんといてな。価格をちょい下げてんや。ちょっとばかし量が変わってもええやろ？」
「そっかあ？ なーんかこの辺の肉とかなあ…」
…いやいやいや。
少なくとも未来にはどの辺が少なくなったのか、減ったのか。昨日のことをいくら思い出してみても分からない。
そんな未来の隣にそっと腰を下ろす女性一人。
「…おはよ」
「あ。おはようございます」
皆最近は昼間寝てるからこんな挨拶が普通になってきている。
「今日も…分ける？」
「助かります。お願いします…」
この「さんどうぃっち」皆は何の遠慮も呵責もなく平らげる。普段はそこまで食べないディクシィですら一つは完全に食べてしまう。そのため未来も最初は無理に口に押し込んでいたのだが、そんな時に同じように困った顔をしている「同志」を発見してしまった。
サーナである。リンチャと組んでいる物静かな女性。何かと騒がしいリンチャとは正反対である。…そのためか密かな人気があるんだとか。ファンクラブがあるとかそんな噂まである。実際、一緒にいると周囲から妙な視線を感じることもある…。
少食同志、ということで認識されているのだろうか。未来の隣に、ちょこん、と座ってくる。
そうは言っても代金は皆がそれぞれ食べた分を自分で払うのだから、一つを二つに分ける方が楽にはなる。
「よく足りるねえ、そんなんで」
カノンの呆れたような感心したような声。なお、彼女は二つ半はぺろっと食べる。
「…そう言わないの。食べ過ぎは良くないのだから」
ライカはカノンと一つを半分こして…一つ半。なぜかこの二人はこうやって分けることが多い。量的な意味か経済的な理由からか、その辺は分からない。ディクシィとリンチャも分け合うことがあるが、たまに、程度だし。ハリエルとニコに至っては奪い合ったりすることの方が多いような気もする。それだけ仲がいいんだろう、と思うことにしているけども。
