「え…！」
右手を差し込んだままの未来。
「ミライ！ 手を…！」
左手をカノンが掴む…が、しかしその直前に、ぐい、と強い力が未来の体を襲う。大きな横向きの力。その力は未来を光の粒の真っただ中へと引きずり込む。
誰かに右手を掴まれている、とかそんな感覚ではない。
…そう言えばそんなことあったっけ…。
同時にある顔が思い浮かぶ。怖かったけど…あの人が…。
…あ…七咲君…。
…最近…しゃべってないなあ…元気してるのかなあ…。
コンピューター研（ほとんどゲーム研）の三輪団員が放課後ほぼ必ず呼びに来るようになってしまった。部の方で、みんなで何かやってるらしいのだが、そうなるとクラスに帰宅部は未来だけ。教頭先生の心配そうな顔が思い浮かぶ。あれから特に何か言われたわけではないが…気にはなる。
…でも…。
最近啓児が何か言いたそうにしていることがある。ほんと、時々なのだが。朝の登校時に会った時や、廊下ですれ違った時。話し込むこともあまりないので、挨拶程度の言葉の後、何か…言いたそうな？ そんな気がする…。
…何だろ…。
ふわり、としていた未来の感覚はいきなりの固い地面で我に返る。…地面？
…土じゃ…ない？
鉄板、と呼んだ方が適当だろうか。未来には『太い釘をいっぱい打ち込んだ鉄の板』と見えたのだが、実際にはリベットと呼ばれる鉄板同士などを固定させる金具、それらが大量に打ち込まれた鋼鉄製の板である。それが何枚も敷き詰められてあって道のようになっている。触ってみると丸くてつるつるして…いや、そこまでキレイなものではない。嗅いでみると手からは錆の臭いがする。指先には、じゃり、とやはり錆びた感触がある。
…どこ…？
見上げてみると空は鉛色に曇っている。これまでのように暗いながらも星の光が見えるような空ではない。
…どこ？ ここ？
昼間のようだ。夜ではない。…よく見ると…狭い通路のようになっていて、天井はない。しかし通路にはたくさんの小さな窓があるのが見える。いや、これは…。
…ドア？
取っ手がある。それぞれの小窓の斜め下くらいに。ドアノブにしてはなんだか角ばっているような気もするけど。しかしこれを握って回すか何かすればそれで開く、と思える…のだが？
小さな窓を覗き込んでみる。中？は真っ暗。何も見えない。
思い切って取っ手を回してみる。…しかしびくともしない。
…あれ？ 違うのかな…。
今度は押してみる。動かない。じゃあ…と引いてみる。少し、揺れたような気もする。押したり引いたりすると少し揺れるくらいで開く気配はない…。
『＊＋（＆％＃”＝〜＆＄）｜？』
いきなり背後から声が響く。聞こえる、と言うより響く、といった方が合っている。金属音？ いや、それほど高くはないのだけれど、人間の声とはちょっと思えない。
『！）（％’＄！！！』
思わず後ずさりする未来。まだ腰に吊るしてあったシノノメに、一瞬手を伸ばそう、と思ったが体は動かない。反射的に（むしろ本能的に）身体が後ろへ下がっただけ。
そこに立っているのは長身の…見た目は人間。羽佐人くらいだろうか。しかし全身つるつるてかてかの銀色のスーツのような服（宇宙服に見えなくもない）を着ている上にフルフェイスのヘルメットまで被っていてよく分からない。とりあえず手足は二本ずつあって直立で歩けて両手？を使うことはできそうだ。が、ヘルメットのバイザーがしっかりと閉まっていてそれが真っ黒だから中身はもちろん顔も分からない。
『＋＞＊＠’＆％”』
未来に気付いているのかいないのか。ゆっくりと手を伸ばしてドアノブ？に手？をかける。ヘルメットを被った人が普通にドアを開けようとしている、という風に見えなくもない。ただし中身が分からないのだからヒトかどうかも分からない。
『＄＝＋＆＆』
…ドアはあっさり開いた。そのまま右へずらしたのである。小窓のある、未来の背丈ほどの戸がすすすっと開いた。
…引き戸だったんだ…。
ヘルメット氏は開けたけど閉める気ないようで、そのままずんずん中へ入って行ってしまう。未来のことを認識しているのかどうか、分からない。だから未来もそのままくっついて中へ入ってみることにしたのだった。
