中は思ったよりも広い。人一人が使う個室くらいかなー、と勝手に思っていたのだがそうでもない。少なくとも三人くらいは楽にくつろげそうだ。ただし、それは広さだけ。
内装はのっぺらぼうそのもの。床と壁と天井とドアしかない。壁は床と同じように金属質でリベット打ちまくり。見上げてみると天井も似たようなもの。でも天井の一部はガラス…いや、なんか違うような気もする…薄いプラスチック的な何か、と言うか。すりガラスよりもむしろ白くぼやけた透明な板、とかそんな感じのものが一枚だけはめこまれている。そこからはやや明るい白い光が漏れている。
天井に埋め込まれた蛍光灯みたい…と未来は思う。
ただし「蛍光灯」には思えない。照明として照らしているのだがどうにも安定していない。切れかけた蛍光灯のようにちかちかする、とかそういうのではない。半透明の板の向こうで何かが動いているのだ。発光する「ナニカ」がその板の向こうにあるのは間違いないだろう。が、その「ナニカ」はどうも生き物のように動いているようで…時々明るさが変わったり光の方向が変わっているのがここからでも分かる。
本当に何か光を出す生き物を閉じ込めているのかも知れない。だけど分からない。
ヘルメット氏はやはり何か言葉を発しながら奥へと進む。後をくっついてくる未来に話しかけているのか、それとも独り言なのか。あるいはここではこういう風に常にしゃべっていないといけないのか、その辺の事情は分からない。
これが例えばバイザーかかったままでもヘルメットをこっちに向けてくるとか、何らかの手ぶりをするとかそういうことなら未来に対してしゃべっているんだなとかそういうことまで思い至るのだろうけど。それがどんどん歩いて行ってしまう上に一度も振り返らないのだからやはり分からない。
『＞〜｜￥＠％（’＄＃）”＝＝「｛〜）＜＋＆％？？』
何を言っているかも分からない。
そのヘルメット氏が歩みを止める。…何かの機械の前。
金属で統一？されている室内にあって、ここにだけ木製の家具がある。少なくとも未来にはそう見える。ただし「木製の家具」と言っても丁寧に彫り込まれた高価そうな食器棚、とかぺらぺらの合板を組み合わせたカラーボックスなどではなく。塗装も何もしていない、白木の「箱」である。大きさはヘルメット氏の胸ほどまでもあって、色も白くはなくてくすんだ茶色になっているけども。相当に年数が経っているのだろうか？
『’＆＃＃＄＄’＞＊＊￥￥＋』
その前に立って、しばし…考え込んでいるのだろうか、動かない。
『”＃！＠＆｛＠』
少し後ろからのぞきこんで見る。…何やら操作盤みたいなものがある。ボタンらしきものがいくつかと、小さなレバーが見える。木の箱ではなくて何かの機械なんだろうか、何に使うんだろう…と思っていたらヘルメット氏が操作盤を軽く、ぽんぽん、と操作する。
一瞬、ざりざりっと耳に障る音がして…やや内にこもった音が流れ始める。
…歌？
誰かが歌っているようだ。針のように高い音の、弦楽器だけのシンプルで軽やかな伴奏。
『…Like a mistaken unforgetable stream.
…So for Me it's a cream.
…I surely get it as a dream.
…You spent my soul and her bless...』
…えっと…。
さっきまでのわけ分からない言語ではない。
…どっかで聞いたことあるような…。
『…Wait for calling.
…Deeply for thinking.
…For me, it's talking...』
…英語？ なんで…。
こんな場所で？ ここって一体…？
思わず前に立っているヘルメット氏に手が伸びる。だけど、その手の先が彼？に触れる前に、隔てるようにあの光の粒が無数に現れた。無意識にその中へと手を突っ込む形となる。
…待って…！
『…It's just a mysterious palace...』
未来の体はその光の粒に包まれて…また、消えてしまった。
