…あれ？
今度はほとんど時間差はなかった。ここはあの「夜回り」の最中の…あの場所。
どんよりと鉛色に曇っていたあの空ではない。深い青にきらきらと瞬く星が満ちた、ここは夜のナンタイコウの町である。
「ミライ…？ なんともないかい？」
いつの間にか（本当にいつの間にか）カノンにしっかりと左手を掴まれていた。心配そうな顔。
「え、あ、はい…」
「いきなりどっか行っちまうからねえ…驚いたよ」
よ、と軽く力を込めて引っ張り上げてくる。カノンの方が背が高いから正に引っ張り上げて立たせるような格好。道の敷石に倒れ込むような姿勢になっていたのだ。戻って来た時に倒れ込んでしまったのだろうか…？
「ふむ。何ともないようだな」
ヤッシが未来の周りをぐるりと回る。…なんだか恥ずかしい。
ガトは…一歩だけ前に出て未来を見上げてくる。その丸く開いた瞳孔には暗い夜空をも吸い込んだような、深い黒が佇んでいる。
「こういうのが時々はあるってこったな」
「…ガト？」
「まあ、気にするないってこった。…さ、夜回りを続けねえとな。まだこっちの方も回るんだろ？」
その晩は…それっきり。何もなかった。
…うあーーー…。
やっぱり眠い…。
あの後マリカの宿屋に戻ってみんなと合流して。未来たちが遭遇した謎の光のことなんかも話してみたのだが。
『何だろうな』
『…聞いたことないねえ』
などと皆、首をひねるばかり。未来が「中」で会ったヘルメット氏のことを説明してみてもよく分からない、という反応ばかり。もっとも、未来だって何が何だかよく分かってないのである。あそこがどんな場所であのヘルメット氏は一体何者なのか。そして…（これは話さなかったのだが）なぜ英語の歌が流れてきたのか。
そんな話をしていたものだからベッドに入るのがかなり遅れてしまって、もう太陽がのぼるぞ、もう夜じゃないぞ朝だぞ、とかそんな時間になってしまっていた。
…ぐっすり眠れるかな、今回は。
とか思っていたのだが、甘かった。いつものように下にアレを入れてマクラを軽く三回叩いてベッドに入った瞬間、急降下するような勢いで眠りに落ちた。そして未来の中ではほとんど体感的な差を感じることもなく…自分の部屋で目覚まし時計が鳴り響いていたのだった。今までならちょっとは眠れていたはずだったのに。
…あーーー…なんかそんな気がしてたんだ…。
昼休み。ぐだあ、と両手投げ出して机に突っ伏している未来。
「ねー…だいじょぶ？」
「だいじょぶ、だいじょぶ」
かしこのいつも通りの心配に、やはりいつも通りの受け答え。
「ちっちっちっ。お嬢さん」
人差し指をちちち、と振りながらの登場。もちろん真記。ドヤ顔少し手前の得意気な顔。真正面ではなくやや斜めに対していく。
「…徹夜はするな。睡眠不足はいい仕事の敵だ。それに美容にも良くねえ」
くい、と指先でメガネを押し上げるような仕草。作ったようなダミ声である。
一瞬、注目した二人だが。
「ねー、なにかあるなら言って？ ね？ やっぱりなにかあるんじゃないの？」
「そんなんじゃないって。だいじょぶだから」
「だいじょぶってかんじじゃないよ…」
「ね、ねえ…」
何度も何度もメガネを押し上げる仕草を繰り返す。ドヤ顔も何もあったもんではない。
「ツッコんでよ…」
無視を決め込む二人。
「福田さん」
いつの間にか啓児が席のそばに来ている。わーわーと手を振り回したりしている真記のせいで見えなかったようだ。
「ちょっといいかい？」
