「……」
「………」
『あんたら、この子の友達だろ？ ちょいと手伝ってくれないかねえ？』
「ネコが…ネコが…」
「…しゃべってる…？」
二足歩行こそしていないが、あまりネコらしくない、アフリカかどこかの野生動物みたいに立ち上がって前脚を前に揃えた格好である。
『ああ…もう、そういうのいいから。どうなんだい？ 手伝ってくれるのかい？ くれないのかい？』
「いや、えっと、その」
「あの…ねえ？」
思わず顔を見合わせる真記とかしこ。そりゃあ…そうだろう。
立ってるネコに何かお願い事をされる、なんて人生でもめったに味わえない光景を前にしているのだから。
しかしガーフは戸惑ってる二人の前で、再び大きなため息。
『はあ…これだからお新規さんはめんどくさいんだ。…オーパス？ 後でこの二人に説明してやっとくれな。…ミライ、行くよ？』
「…え？」
『え、じゃない。荒療治だって言っただろ？ 一緒に渡るんだ。さ、行くよ』
未来の手をとる。と言っても乗せただけ、みたいなものだが。
「でも、ガーフ、僕、どうしたら…」
『だからこの二人に説明しといておくれな。ちょっとの間ミライがこの世界から消えるからその間なんとかしてくれって』
「え、みきが…消える？ 何？ どういうこと？」
『みき？ この子はミライだろ？ まあいいや。ちょっと色々と渡るから消えるってこと』
「いろいろ…いろいろ？」
『色々は色々だあね。くわしくはオーパスに聞いとくれ』
「…いやいやいや、この人は七咲君で…おーなんとかじゃ…」
『どっちでもいいさ。名前なんて。…とにかく。ミライ、一緒に渡るよ』
手に自分の手を置く…。
「でも一緒に、って、さっき旅人でも一緒には渡れないって…」
『そりゃ何の準備もなしに一緒に渡るなんてどんな手練れでも無理って話さ。シンクロ、つまり自分の思考を相手の思考の方向性に近づけられるんなら問題ない。あんたが私にくっついていくのは無理だけど、私があんたにくっついて行くのは可能って話』
「ガーフ…」
「何？ 一体何？ 何がどうなって…」
「みらい、どうなるの？ ねえ？ ネコさん？」
「わたし、その…」
ようやく立ち直ってきた未来が立ち上がろうとする…少し、体が揺れる。床にへたり込んでいるような姿勢だったから上半身を揺らすような格好なのだが…。
「あ」
白い小さな光の粒がその体を一瞬で包んでいく…。
『…ちっ、ちんたらだらだらしてるから…オーパス！ 後は頼んだよ！』
消しゴムで細密な鉛筆画を思い切りよく消していくように足先から未来の体が消えていく。床下に沈み込んでいったり頭の上にそのまま移動していくようなガーフの姿とは少し違う。…その未来の肩にすがるように何とか取り付く…キジネコ。
『頼んだよ…オーパス！ あんたらも！』
そして。未来の姿は一瞬だけ明るさを増した光の粒の中に完全に消えてしまった。
残されたのは啓児と真記とかしこ。どうしようかな、という顔の啓児に対して呆然、としている二人。そこへ昼休みの終了を告げるチャイムの音が。
「とりあえず…」
軽く膝のホコリを払う啓児。
「戻ろうか？」
小さくうなずく真記。やはり呆然としているかしこ。それでものろのろと立ち上がる。
「とりあえずさ」
「うん」
「説明…してくんない？」
「…うん」
…それが難しいんだよなあ…。
別に禁止されてるわけでもなんでもないのだが。どこからどうやって説明したら最も効率？がいいのか。その辺が分からない啓児なのである。
