放課後の教室は夕焼けの色。皆の顔も窓の外の空の色に染まっている。
「じゃあそんなにあぶないことない…んだよね？」
「…たぶん」
若干目を反らしてしまうのは仕方がない。
「みきがそう言うんじゃあさ…仕方ないけどさ」
真記の視線の先は未来の目から離れない。
「本当に大丈夫？」
「…うん」
「あたしの目を見て。きちんと」
真記の目つきはちょっと怖い。意外と小さな子供が好きで、駅で待っている時にしゃがみこんで幼稚園児なんかに話しかけることもある。が…大抵の場合相手が泣きながら逃げ出してしまう。もちろん脅かしているわけではない。当人としては当たり前に普通に接しているだけなのだが…「仕方ないねえ」と両肩をすくめて見せる、そんな場面に未来も何度も出くわしている。
そんな時の真記の目は…やはり、どこか、さびしい。
でも今の真記の目は。
未来は一回だけ息を大きく飲み込んで、それから、小さくその息を吐く。
「うん。…だいじょぶ。うん…だいじょぶ」
「そっか。…分かった。かしこも、いい？ 分かった。それでいいね？」
「…うん。わかった」
「じゃあ…そういうことだから…転校生！」
びし。
「そういうことだから、あたしのみきを頼んだよっ！」
何だかよく分からない宣言？ではある。
「えっと…何を？」
「いいから。ここは男なら『俺に、任せとけぃ！』って言っときゃそれでいいの」
「…はあ」
そんなもんなのかな…とでも言いたげな啓児と、なんとなくだけどホッとした未来。真記の妙な宣言？だか何だかで押し切られてしまったのだった。
それでも疑問がなくなったわけでもないのである。それは未来も、そして啓児も同じなのだが…。
あれから一日経ったことになる。
みんなも少しは落ち着いたかな、と思えるのは休み時間になって真記とかしこがちょこちょこ話しかけてくるからかも知れない。こういうのはいつものことなのだし。ただ、他の生徒もいるからあまり大っぴらには話せない、という風に思ったらしくひそひそ声なのがいつもとは違う。
『今までどんな世界に行ったの？』
というのがやはり気になるらしい。今のところ未来が一番よく渡った世界と言えば…やはりあそこ、ということになる。
「みらいの行ったそのせかいってさ、ちょっとおもしろそうだよね。魔法とかあるんでしょ？」
「うん。使える人もいたよ」
「みらいは使えないの？」
「わたしのは…なんかちょっと普通と違ってたみたいだけど」
「え、え？ どんなかんじなの？」
文芸部だけあってそういう方面に興味があるようである。ただ…未来の机に三人、額を集めての会話である。…かえって怪しく見えるような気もするのだけど。何かよろしくない密談でもしているように見えなくもない。
「でもさ」
真記はその辺にはあんまり関心がないらしい。
「そういう世界ってさ、誰かが作ったもんなんでしょ？」
少なくともガーフも、啓児もそう言っていた。その啓児は三輪団員に呼ばれて今はいないけども。
「じゃあさ…ここも誰かが作ったってこと？ あたしらのいるこの世界も？」
指を真下に向けて机を指す。
「さあ…どうなんだろ…？」
少なくともガーフは何も言ってなかったから…よく、分からない。
