「で…その」
にへら、とヘンな笑い浮かべながら、身を乗り出してくる真記。繰り返すが、こういう「雰囲気のある年上」に結構弱かったりする。
「先輩は一体何のことで…」
その阿多根先輩は…自分が買ってきたあんパンを半分くらい一気に口にふくんだまま真記を見てくる。
「？」
ああ、そうか、そうだよね…とでも言いたいのかちょっとふがふが口の中で転がすと同時にまず半分を飲み込み…すぐに残り半分を口に押し込むとこちらは一思いに喉の奥へと送り込んでしまう。
「げふ。がは」
さすがに何度かせき込んで、そして…持って来ていたペットボトルのお茶でさらに奥へと流し込んでしまう。
「うむ…ごくん」
…せわしない人だなあ…。
正直にそう思ってしまう未来。すぐ隣で。だが、何か引っかかるものも感じている。それは初めて見た時（ついさっきだから正確には『初めて』じゃないけど）から胸の奥…いや、どちらかと言うと頭の中にちょっとした引っかかりがあるのだ。それはすごく細い針のような、いや、切り揃えたばかりの小指の爪の先ほどもないトゲと呼んだ方がいいかも知れない。頭の中の、一点だけ。そこへ刺さってるわけでもなく軽く引っかかっているような、奇妙な感覚。
奇妙の感覚の中にはどこかで会っているような気もする、というのもある。もちろんあのファミレスの時より前に。
「ごほん。んん。あー…みー、いや、福田さん」
「は、はい」
「あのね…あたしのおじいちゃんって…覚えてる？」
半分くらい涙目である。その理由はもちろんパンを無理に飲み込んだから。
「おじい…ちゃん？」
「そ。ゲンゾーって。阿多根ゲンゾー」
その半分くらいの涙目で見上げてくる。背がい低いのだから当然そうなる。だけど、その目の奥は…。
「げんぞー…おじいちゃん…」
…何だろ。この…感覚…？
ほとんど会ってないはずの人の祖父を知ってるか、と言われて即座に『あーはいはい、あの人ですね？ いやー、あの時はお世話になりました。お元気なんですか？』とか返せる人間はまずいない、ということは未来はもちろん真記もかしこもよく分かっている。こっちの二人も未来がこのせっかちな先輩と知り合い…にしてはなんかミョーだな、ということくらいは気づいている。
だけどそれが何のことなのか、そこまでは分かっていない。いや、分かるはずもない。二人にとっては初対面の先輩なのだから。
「…みらい？ しってるの？」
「うーーーん…」
何か、妙な、奇妙な、この…感じ？
未来は頭を抱え込むような格好になってしまう。この小さなトゲは実は思っていたよりも深かった…とかそんなとこかも知れない。
「その、えっと…先輩？ 先輩は…みきのこと知ってた…んですか？」
やはり、にへ、と微妙な笑みを張り付かせたままの真記のその言葉を聞いた美咲だったのだが。
「…先輩？」
目を大きく見開いて。唇の端が上を向いている。顔を染めていく赤味がさらに強くなってきて…
「ぶはっ」
それから…大爆笑である。体を半分に折り曲げて…笑う笑う。その辺にいる生徒たちが皆何かあったのか、と振り返るほどに。
「いやー、笑った笑った。あはははは…っと、ごめんごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど。…あー…おかし」
そういうつもりも何も。他の三人はこのせっかちで小柄な先輩が何でいきなり大声で笑いだしたのか、さっぱり分からんのである。
「ね、み…福田さん」
「は、はい…？」
「あたしのおじいちゃんもそうだけどさ、コレ、覚えてない？」
「『みらいのみらいはみらいのみらい』って」
「……」
「だから…『みらいのみらいはみらいのみらい』っての」
