福田今日子。
「…母さん…？」
「ああ、そうにゃのか。そういう例は非常に多いにゃ。我が子のために世界を造る、というのは結構あることにゃのにゃ」
手にしていた帳簿？を奥へ押しやるような仕草…上半身だけを思い切り前へ、と伸ばし…ぐい、と最後に一押し。箱だか棚だか、なんだかそういった家具？用品？へとしまい込んでしまっている…そんな風に見えないこともない。
今度は右前足を、少し、右へずらす。先ほどどこかに「置いた」ように見えた手帳？を手（右前足）にとったらしい。
…たったそれだけなのに、ふう、ふう、ふう…と息を切らせて…いるような？ どれだけ体力ないのか、ちょっと想像しにくい。その巨体は、だららん、と地面に放り出されてあってそれほど大きく動いてはいないようなのだけども。
「その目的は様々にゃ。子供の遊び場を、という例もあれば訓練場にしよう、としていた例もあるにゃ」
「目的があるんですか？」
「にゃかったら世界にゃんか造れにゃいにゃ。…軽く考えておらんかにゃ？ そんなカンタンに世界なぞ造れるわけにゃいのにゃ。にゃにしろ…」
「世界丸ごと造るのにどれだけの労力と時間が必要か、知っておるのかにゃ？」
と、言われてもよく分からない。
ぽかん、としてしまった未来を見て、なぜかふふん、と鼻を鳴らして唇の片端だけ持ち上げて見せるネイト。
「どうにゃ。吾輩のすごさが分かったかにゃ？」
「いや、えーと…」
…ここを造ったのは別にネイトさんじゃないんじゃ…。
とか思ったが
「ええ、まあ…はい」
多分ややこしくなりそうなので、とりあえず『はい』と言っておく。
「でも…」
「なんにゃ？」
「母さんが何の目的でここを…？」
「それは…」
再び手帳？を置いて、よいせ、と腰を伸ばして奥の方にあるらしい帳簿に手を伸ばして…。
…まだるっこしいなあ…。
何をやってるか、自分にもきちんと見えるんだったらこんなぐだぐだでのろまな猫に任せずこの手で引っ張り出してやりたいくらいになってきている。…そんな未来なのだが…。
…母さん…なんで…？
疑問形。顔もよく思い出せない。それくらいのそっけない感覚しか湧いてこない来ない。羽佐人があれだけ心に掛けていて、先守があれだけ気に病んでいた、母さんなのに。
「ええと、ふう、あった、ふう、にゃ」
ようやく取り出してきた帳簿？をぱらぱらとめくっていく。
「ふむ？ 目的はやはり『我が子のため』にゃ。サキモリとアキオにはほぼ同一目的。ミライはまた少し違う、と」
「どう違うんですか？」
「そうせかすにゃい。まずは…ふむ、基本設定は遊び場、となっているにゃ。つまり我が子を遊ばせるための場所ということにゃ、分かるかにゃ？」
…それくらい分かります。
「しかし登場人物の立ち位置に違いがあるのにゃ。案内人が三人。これは本来の意味での『案内人』にゃ。そして同行者が一人」
そう言えばそんなことをガトだけどガトじゃない誰か（中身がアイトになってた？）があの時言っていたような気もする。あの時のことを思い出してみる。
「案内人って…ベルホさんにリョンカさんに…ガト、ですか？」
何度か帳簿？をめくっては戻り、めくって戻り、を繰り返す。
「うむ。その通りにゃ」
「じゃあ…同行者って…？」
「ここには『ハリエル』とあるにゃ。知ってるかにゃ？」
「ええ」
「サキモリなら『ライバル』アキオなら『ケンカ友達』と設定されてるのにゃ。そしてミライは…『友達以上彼氏未満』となっているにゃ」
えーと…母さん？
羽佐人は七年行方不明だった、と言っていた。つまり未来が10歳くらいの頃のことのはずで…いや、ここを造った時はもっと前だったかも知れない…のだけれど、なんでそんなややこしそうな設定を考えたのだろう…？
