…言われてみれば。
「さらにそのシノノメはその時にスピードレイズはスティールしたのににゃんで地走りは盗まにゃかったのにゃ？」
「それは…」
…なんでだろ？
「シノノメはしっかり設定にあるのにゃ」
見えない帳簿のページをぱらり。
「『対象人物が所持して魔法装具の効果魔法を見ただけで習得できる』と。あらかじめ設定されていればこうやって効果を発揮できるにゃ。しかし後から入って来た精霊魔法は企画設定書のどこにも載ってにゃい。だから盗むこともできにゃい」
「そんな細かいところまで決まってるんですか？」
「当たり前にゃ。この企画設定書を見てみるといいにゃ。にゃ？ この厚さ。これでもまだまだ一部にゃのにゃ」
と、丸っこい手（前脚）で持ち上げるように見せられても見えないものは見えないのだけれど。
「だから世界を造るのは非常に困難で大変で難しいことなのにゃ。…でも」
「…でも？」
「だからこそ面白いのにゃ。今までたくさんの世界のたくさんの存在がクリエイターを目指してはたくさんの世界を造っているのにゃ。それこそ星の数なんぞ比べ物ににゃらにゃいくらいに、にゃ」
「どうにゃ？ 分かったかにゃ？」
…なんとなく、なんとなく。うん、とうなずいてみせる。
「ディクシィも精霊魔法も他から来た、ってことですか…？」
「うむ。どちらも似たようなものにゃんにゃろ？ 似た因子があるとインベイドも起きやすいのにゃ」
「どっちもそもそも母さんが考えてたものではない…ってことですよね？」
「そうにゃ。分かってきたようにゃね。ついでにこれも言っておくにゃ。トウキコウやサイデンという地名もこの世界では定着してるようにゃ。聞いたことあるにゃろ？」
「はい」
ガトも言っていた。あの海の向こうにあって港から行ける…と。それに、たしか…。
と、そこで未来は目の前のふてぶてしく地面に垂れ下がってしまってるようなこの猫の、丸っこいけど妙に静かな目に気付いてしまった。
「まさか…」
「そうにゃ。その通りにゃ。そんにゃ町はこの世界には存在してにゃいにゃ。あるのはここナンタイコウだけにゃ。この海の先には何もにゃい。ただ海が続いているだけにゃ」
「じゃあ、あの港から船に乗っても…」
「どこにも着かにゃいのにゃ。企画設定書にはループするような記述もにゃいわけではにゃいから…運が良ければナンタイコウの港に戻って来れるかも知れにゃいが…あの海はここの技術レベルでは基本的に船出できないくらいに荒れるように設定されているのにゃ。入って来る船も出て行く船の基本的には存在しにゃい」
「でも、でも…たしか、ディクシィはトウキコウ出身って…」
はっと気づく。
「…インベイド…」
「一つの帳尻合わせにゃね。この世界『ナンタイコウ』と精霊魔法の存在する『トウキコウ』は緩やかに、しかも良い相性で繋がってきているようにゃ」
手にしているらしい帳簿を…また棚？の奥？へ押し込むような仕草。今度はその上？の棚？を探るような、しかしそこではなかったようで今度は下？右？左？とあちこち探しているような仕草（もちろんのったくったとまどろこっしい動きで）。
「ふう…ふう。どうも、そっちの企画設定書は…ふうう…この区画にはにゃいみたいにゃね。『トウキコウ』がどんにゃ世界か、ちょっと分からにゃいにゃ…」
「すぐ隣の世界ってわけじゃないんですか…？」
「隣？ ああ、それが物理的に近いという意味にゃらそんな距離は全くの無意味にゃ。世界と世界の間には『無』しかにゃいのにゃ。そこでは距離や時間にゃんぞには全く意味がにゃいものにゃのにゃ。あるのは…『縁』といったころかにゃ」
「にゃから思いもよらない世界からインベイドを受けたりすることもあるのにゃ。それも『縁』これも『縁』にゃね」
…お坊さんみたい。
両手を合わせて神妙に一礼、とかやってくれたらそれっぽい猫僧？に見えないこともないが…当猫はだらしなく地面にのびているだけなので、徳なんかかけらもあるようには見えない。
「ところでネイトさんはここで一体何をしているんですか？」
するとこの猫はどこぞの物語の樹上の猫のように耳の辺りまでくわわわ、と口の端を持ち上げて見せたりする。
「吾輩は五十音属のネイトにゃ。キュリオスの使いが世界でやることは一つ、その世界の維持にゃのにゃ」
「維持…？」
「特に後天世界は不安定、と言ったにゃろ？ 不安定ということは非常に危うい、ということにゃ…」
「そのため吾輩のようにゃキュリオスの使いが定期的にメンテナンスをして、認証もしていかにゃいといけにゃいのにゃ。そうでにゃいと…」
「そうでないと？」
口の端がさらに持ち上がってまるで耳まで裂けたよう。そして丸い目も一瞬だけ細く、縦に長細くなったような気がする。思い切り笑ってる…？
「壊れてしまうのにゃ。適切に手を入れていかにゃいと世界は壊れてしまうのにゃ。そして世界として正常に機能できにゃい、認証すらできにゃい、と正式に判断されればその世界は破棄されて永遠に失われてしまうのにゃ。そんにゃ危うい世界、放置したら他の世界にどんにゃ影響を与えるか…いや、影響を与えることもできにゃいようにゃ世界にゃら存在していても意味にゃいのにゃから」
